1.アリストテレスは脾陽虚(ひようきょ)

アリストテレスといえば、BC4世紀に活躍した、プラトンの優秀な弟子にして、学園リュケイオンを開いた偉大な哲学者ですが、彼は中医学でいう「脾陽虚」であったと考えられます。

脾陽虚というのは、いわば脾臓の熱エネルギー不足ですが、これはペリパトス学派(逍遥学派)の大哲学者にとっては、由々しき問だったと思われます。

中医学では、脾臓は別名「後天之本」ともいわれ、飲食物から生きてゆくために必要な体内物質を作るための大元として、重要な役割を担っていると考えます。

その脾臓の熱エネルギーが不足していると、必要な物質が作られないため、からだが痩せたり、力が入らなくなったりたり、寒さに弱く
なったり、消化器系に症状が出たりします。

書物によれば、「アリストテレスはいつもきれいに着飾ってはいたものの、足もとがおぼつかない、小さな目の男だった」とあります。

これは脾のはたらきが悪いため、からだを養うために必要なものが不足し、四肢の筋肉が衰えていたと考えられます。
また目は、肝にストックされた血液により養われると考えますが、このストック分の血液も不足し、目が小さく見えたかもしれません。

歩きながら対話をするペリパトス学派の彼にとって、足もとがおぼつかないことは辛いことではなかったでしょうか・・・。

弟子たちの記録では、「胃が弱かったようで、いつも眠る時には、胃の上に温めた油を詰めた革袋を乗せていた」ともあります。

胃は脾臓ととても密接な関係があり、脾臓のはたらきが悪いと、飲食物を消化吸収する胃にも影響が現れますが、温めると症状がやわらいぐのは、熱エネルギーの不足の特徴です。
また夜は、気温も下がる時間ですから、熱エネルギー不足があると症状は悪化しやすくなります。

恐らくアリストテレスは脾陽虚で、胃のはたらきもが悪く、食の細い人物だったと思われます。
いつもお腹に手をやったり、温めたりしながら、とぼとぼと歩いて思索にふけり、対話に興じていたのではないでしょうか・・・?

この脾陽を傷つける原因のひとつに、冷たいもの、生もの、水分の摂り過ぎというのがあります。
これからの季節にはどれも欠かせませんが、摂り過ぎには充分お気を付け下さい(*^_-)b

2004/07/05【熊猫芽便り82号】

 

2.つまを大事にしてますか?

ベストセラーになった岩崎峰子さんの『祇園の教訓』という本の中にも、お刺身のツマを残してお魚だけを食べる人は、得てして実生活でも主役だけを大事にして脇役には配慮を欠く、といった内容のお話があります。

お刺身のツマといえば、大根のけん、大葉、紫蘇の花穂、紅蓼などがありますが、これらは何もお刺身を引き立てるためだけにあしらわれているわけではありません。

今でこそ世界各国でお寿司がブームになり、生魚に抵抗のある人も減りましたが、海外では生魚はあたるのではないかと心配する人も少なくありません。日本国内でも、早く鮮度の落ちる魚は地元でしか生食はできなかったりします。

現代医学的には、焼き魚や煮魚よりもお刺身の方が消化がよいので、お年寄りや病中・病後に奨める傾向もありますが、中医学では全く反対に考えます。
火を使って調理することを覚えた人間にとって、魚に限らず生食というのは、消化器系を直に冷やし、はたらきを低下させてしまうと考えるのです。

この季節、こってりハードな食事よりも、さっぱりした口当たりのもの
や冷たいものが好まれます。
だからといって、冷たいものや生ものばかりを摂っていると、更に胃腸のはたらきが悪くなって、更にさっぱりしたものしか口にできなく
なったり、お腹の調子が悪くなったり、夏バテした経験はありませんか?

中医学では、冷たいもの・生もの・水分の摂り過ぎは、「後天之本」い わばエネルギー生産工場である脾のはたらきを低下させ、エネルギー不 足や水分代謝の低下、胃腸のはたらきの低下を招くと考えます。

脾のはたらき
 
http://ookawashouten.com/zhongyi/zangfu.htm#pi

これを予防するのが、脇役として登場するツマです。
これらには、抗菌作用、消化を助けるはたらき、冷えを散らすはたらき、 水分代謝をよくするはたらきなどがあり、お口に美味しいお刺身を体に も美味しくしてくれるのです。

世の中に無駄なものはありません。
今までツマを残していたあなた・・・これからは全部頂きましょう。
そして、あなたのつま(妻、古語では夫)も大切に!

2004/07/15【熊猫芽便り83号】

 

3.親子の関係

昨今、親が我が子を虐待したり、夫や妻が配偶者に暴力を振るうなど、痛ましい事件が後を絶ちません。
我が子や配偶者に手を上げる加害者は、かつて自分も被害者だったことが少なくありません。
こうした負の連鎖はどこかで断ち切らねばなりませんが、当事者にとって極めて難しい問題である事も事実です。

さて、この「親子」の関係、中医学の上でも重要な関係のひとつです。

陰陽五行の「相生」すなわち「木→火→土→金→水(→木)」という関係がこれに当たります。
木が燃えると火が起こり、火が燃えた後の灰は土になり、土はその内部に金属を育み、金属の間からは水が湧き、水が木を育てる、というのが自然界の親子関係です。

仮に火を強くしたいと考えた場合、より多くの木をくべれば目的は達成されます。
この場合、子である火を養うために、母である木を補ったと考えられます。

この五行は五臓六腑にも当てはまりますから、人間の体でも同じような関係が成立していると考えます。

例えば、脾(土)と肺(金)を例にとって考えてみましょう。
無理なダイエットを続けたために、肺のエネルギー不足になってしまい、ちょっと動いただけでも息切れがしたり、呼吸が苦しくなったりする人がます。
この場合、直接肺を補うよりも、ごはんをしっかり食べて、エネルギー生産工場としての役割を持つ脾を補った方が、ずっと早くよくなります。つまり子である肺を助けるために、親である脾を補うのです。

五行
 
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子供が虚弱な場合、親は神経過敏になり、必要以上にかまったり、緊張しながら生活している場合があります。
しかし、その親のピリピリした感じは子供にも感染し、更に悪循環に陥ることがあります。

例えば、子供に煎薬を飲ませているお母さんが
「半分に煮詰めるよう書いてあるのに20cc足りなくなりました」とか
「食前(食時の30分くらい前)に服用と言われたのに、お薬を飲ませた25分後に食時させてしまいました」とか
神経質になっているよりは
「ついうっかり食後に飲ませちゃいました」
と言ってるようなお母さんの方が、実際、子供の症状は改善されやす かったりします。

先の虐待やDVの話も同じです。
親の良くない所が、知らす知らずの内に子供に移ってしまうことがあり ます。
加害者だけでなく、そのまた加害者も、専門家に相談するなど対策をと るのが解決の鍵ではないでしょうか?

子供をなおすには、親をなおすのが先決、というお話でした。

2004/07/26【熊猫芽便り84号】

 

4.森光子さんの腎は強靱

女優の森光子さんは今年84歳。
『放浪記』のでんぐり返りをはじめ、年齢を感じさせない若々しさに驚きを隠せません。
先のでんぐり返りも生で拝見しましたが、『春は爛漫』の冒頭の若い娘役に、一緒に観に行った友人は「あの若い娘誰?」と訊くほどの可愛さで、とても80歳を超えた方が演じているとは思えませんでした。

その森さんが毎日欠かさないのが70歳から始めたという筋トレ。
筋力は40代の女性のそれと変わらないとか。
そればかりか、髪の毛も一切染めたことがないというから驚きです。

「中国医学」では、老化は腎の衰えから来ると考えます。
腎は「先天之気」と呼ばれる両親から与えられた、生命の根源になるエネルギーを貯蔵する場所といわれます。
このエネルギーはもらったものであるため有限で、生まれた後は理論上無限である食餌から作ったエネルギーで補填してゆきます。

しかし、加齢と共に体の機能や代謝は衰えてきますから、有限の腎のエネルギーは徐々に減ってゆき、腎の主るはたらきや体の部位に影響が出てきます。

腎は、脳・骨髄・骨・歯・唾液・耳・目・髪の毛・足腰・大小便・生殖器などに関係します。
いわゆるボケや物忘れ、骨粗鬆症、歯や歯茎の症状、唾液の減少、難聴、老眼、白髪や薄毛、足腰が弱ったり痛んだり、お小水やお通じの不調、更年期や閉経、精力減退などなど…これらは全て腎の衰えによると考え
られます。
また腎のエネルギーは「中国医学」で免疫力や抵抗力を表す衛気(えき)の原料でもあるため、年を取ると病気に掛かりやすく、治りにくくなります。


 
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衛気
 
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洋の東西を問わず、権力者たちは不老不死を願いましたが、これは人間にはどだい無理なことです。
でも、食事に気を付け、充分な休養とストレスの発散、適度な運動を心掛ければ、体は必ず応えてくれます。
漢方相談をお受けしているお客様の中にも、若い頃から虚弱だった方が上記の4点を守りつつ、漢方薬を服用してとてもお元気なられた例がいくつもあります。

先月北京に出張した際、夫の大学の同級生で医師をしている友人たちとそのご家族とで食事を頂きました。
中学生の子供さんがいて、私を見て25歳位と言いましたが、お父さんと同い年だというと驚いていました。
日本で私より年上の友人や仕事関係でご一緒する方を見回してみても、皆私と同じ位に見えるので私が特別というわけではなく、長寿を誇り、健康ブームの日本人が若く見えるのでしょう。
折角実年齢より10以上も若く見られたので(笑)、食事・休養・ストレス発散・運動を心掛けて、元気に楽しく年を重ねたいと思いますp(*^_^*)l
 

2004/08/05【熊猫芽便り85号】

 

5.お天気どんより気分どんより

東京は本日、連続真夏日の記録を更新しましたが、7月に比べ今月は湿度も高く、夕立が来たり、雨が降らないまでも曇った油照りの日が多いように感じます。

…お天気が悪いと気分も塞ぐ… (。。;)

ということありませんか?

湿気には、重く、粘稠で、それ自体滞りやすく、消化吸収・代謝・排泄などを低下させるという特徴があります。

例えば、まるでサウナにいるように蒸し暑い日には食欲不振になりがちですが、これは湿気により、消化器系のはたらきが低下するためです。
颱風の前後になると、古傷が痛んだり、持病の腰痛が悪化したり、という経験をされる方も少なくないかと思いますが、これも湿気が気血津液の通り道である、ツボとツボを繋いだ経絡(けいらく)という通路の流れを滞らせるためと考えます。

人体に限らず生命は、滞りなく代謝・生産・排泄等が行われていることにより保たれています。

「中国医学」では、精神面と肉体面は切り離して考えません。
精神活動の拠点になる神(しん)と呼ばれるものは、心に宿り、心のエネルギーによって守られ、安定し、心の血液によって養われると考えます。
この心のエネルギーや血液は、食事から脾が作り出したものなので、脾から心に供給されています。

精と神
 
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ところが、湿気の影響を受けて、脾胃の消化吸収や心身に必要な物質の生産が低下したり、運ぶための経絡が詰まってしまうと、神はたちまち不安定になってしまいます。
梅雨に始まり湿度の上がるこの時期、テンションが下がったり、何をやるのも億劫になったり、物事を悪い方に考えたりしがちになることがあれば、湿気の影響を考えた方がいいかもしれません。

湿気の影響を最も受けやすいのは脾ですが、水分代謝に関係する肺や腎にも影響が現れます。


 
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もし気分が優れなくて、他に以下のような症状があれば、湿気の影響を疑って良いでしょう(*^_-)b

食欲不振・お腹が脹ったり、ゴロゴロする・下痢や軟便・尿量減少・むくみ・体が重だるい・胸が詰まったり塞がった感じがする・重い痛み・湿度が上がると諸症状が悪化する・汗をかくと楽になる などなど

思い当たったあなたは湿気に翻弄されていますぅ〜…残念!

対策としては、水分・冷たいもの・生ものを控えて脾のはたらきを低下させないようにしたり、香りのある野菜や少量の香辛料を摂って、体内に溜まった湿気を代謝・排泄させましょう。だいず・黒だいず・あずき・そらまめ・緑豆などの豆類や、きゅうり・へちま・とうがんなどの瓜類、こんぶや寒天などの海草類、緑茶・はとむぎ茶・そば茶なども水分代謝をよくするのでオススメです。

梅雨のレシピ
 
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適度な運動や入浴で発汗するのも効果的です。

逆に、暑いからといって脾のはたらきを低下させるような食事ばかりを摂ったり、クーラーなどで体を冷やしすぎると発汗や代謝が抑えられてしまうので要注意です。

生命体に限らず、社会も経済も滞ると衰退します。
滞らせる根本を取り除いて、明るい社会・経済・生活を送りたいですネ!
 

2004/08/12【熊猫芽便り86号】

 

6.吸血鬼はひどい血虚(けっきょ)

昔は怪談…といえば夏の限定物でしたが、最近では季節を問わずオカルト・ホラーの類が溢れています。個人的には背筋がぞぞぞ〜っとして、日本のものが「怖さ」は最たるものだと思っていますが。

西洋のお化け(?)として勇名を轟かせるものといえば吸血鬼。他のお化けに比べて、ちょっと淫靡で耽美なところもたくさんの物語が生まれる一因かもしれません。

物語に出てくる多くの吸血鬼は、血色の悪い蒼白い顔色で、血を好み、日の光とにんにくと十字架が苦手で、夜活発に行動します。

ここでちょっと吸血鬼から離れて、いわゆる貧血の人を想像してみて下さい。
顔色は蒼白く、日中はフラフラ、朝の朝礼は大の苦手…。
ん…?!どこかで聞いたことがありませんか?

血液は赤血球・白血球・血小板などにより構成されています。この中の赤血球が少ない状態を「貧血」といいます。現代医学では、血液成分の割合を検査することは簡単ですが、身体に対する絶対量を測定することは、危険が伴うためほとんど行いません。しかし、貧血と診断されなくても、上記のような症状のある人が年々増えていると言われます。

このような症状は、中国医学では「血虚」といわれる状態の人に多く見受けられます。血虚とは、身体に対する血液の絶対量が不足している状態を指し、現れる症状から推測する事ができます。血虚の状態にある人が増えている原因には、ダイエットや偏食による食事の不摂生や、PCやTV・INゲームの普及による目の酷使、ストレスなどがあ挙げられます。

血虚の人は、顔色が悪く、蒼白い・白い・くすんで黄色っぽい感じになります。常に頭がぼーっとした感じで、頭がなんとなく痛かったり、めまいや立ちくらみしやすく、光がまぶしくて、目の前がちかちかしたりします。疲れやすく、動悸がしたり、手足がしびれることもあります。夜はなかなか寝付けなかったり、寝付いても夢が多く、眠りが浅かったりします。

血虚に限らず、体に必要なものが不足している人に多いのですが、にんにくや辛いものを食べると、後でふらふらしたり、眠くなったりすることがあります。逆に、お肉やチョコレートなど補うものを食べると、頭もすっきりして元気になったりします。日本ではあまり頂きませんが、アジアやヨーロッパでは血液を使った料理もいろいろあり、妊婦や授乳期のお母さんなど、血液の不足しがちな人にはおすすめという所も少なくありません。


 
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あれあれ?!まるで吸血鬼ではありませんか?(笑)

吸血鬼の物語の中には、蒼白い顔の美女で、食事はホットチョコレートだけ。日中は体がだるく、頭痛がして、ほとんどをカーテンを閉めた部屋のベッドで過ごし、夜になると生き血を求めて彷徨い歩く…なんてものもあります。

そうすると、吸血鬼はひどい血虚で、お化けではなく病気なのでは…と私は考えずにはいられません。吸血鬼に噛みつかれると吸血鬼になってしまうエピソードもありますが、実際、馬などには伝染性貧血という病
気もありますから、もしかしたら風土病といえなくもないかもしれません(*^_-)b
中世の魔女狩り同様、もしかすると人間の恐怖心が吸血鬼を生み出したのかもしれませんネ…。

ちょっと私ってば吸血鬼チック?とか思ったあなた…血虚の可能性があります!特に今年のように暑い夏には体力を消耗して、症状が悪化しやすい傾向にあります。また秋の乾燥が更に拍車をかけて、これから夏の疲れが出たりします。少しでも気になった方は、以下にご紹介する血液を補う食品をしっかり摂って、夜更かしや目の酷使に注意して、来るべき秋に備えましょう。

【血液を補う食品】
なっとう・炒りだいず・きなこ・オックステール・羊肉・羊乳・畜獣骨髄・鹿肉・熊の掌・鶏レバー・すずめ・なまず・たちうお・赤貝・なまこ・ライチー・リュウガン・くるみ・黒砂糖・だいず・さつまいも・さといも・にんじん・カリフラワー・なつめ・豚レバー・豚ハツ・豚血・豚足・牛肉・牛レバー・牛筋・中華ハム・鶏卵・卵黄・卵の薄皮・うずらの卵・あひるの卵・鯉・まながつお・いか・あわび・ごま・ゼラチン・ぶどう・クコの実・なつめ・ローヤルゼリィ・ほうれんそう・金針菜・鴨肉・牛乳・卵白・牡蠣・桑の実・ごま油

★注意:単純に血虚の場合を想定した食品です。ご自分の状態にあった詳しいご説明をご希望の方は「掲示板」に書き込みして下さい。それぞれのタイプにあったものをお教え致します。

2004/08/25【熊猫芽便り87号】

 

7.蚯蚓(ミミズ)は美声?!

秋の季語に「蚯蚓鳴く」というのがあります。これは、秋の夜に何者かがジーっと鳴くのを指した言葉で、実際はミミズが鳴いているわけではありません。…って、現代では常識ですネ!(笑)

これに関しては各地に同様の説話が残っています。

昔々、蛇は目がありませんでしたが、大変歌が巧みでした。ミミズには目があり、大層美しい声を持っていましたが、歌をよく知らなかったので、蛇に教えを請いました。蛇は歌を教える代わりにミミズの目を所望し、ミミズは良い声で歌えるようになりましたが、目を無くしてしまいました。

ものの本によれば、これは声の良い盲目の座頭が語り伝えたものだとあります。

さて、このミミズ。実際には歌いも鳴きもしませんが、目がないのに土の中を掘り進んで土を耕し、糞によって土に養分を与えてくれる、畑や庭の救世主です。

中国医学ではミミズを「地龍(じりゅう)」といい、日常的に汎用する生薬のひとつに数えられます。

地龍には、余分熱を冷ましたり、ある種の震え・痙攣・めまいなどを抑えたり、去痰して喘息など呼吸器の症状を改善したり、膀胱のはたらきを調えて排尿を促進するなどのはたらきがあるとされます。

民間薬としても、昔から地龍は熱冷ましとして利用され、本店のある小豆島でも煎じて熱冷ましにする習慣が今も残っています。

運動障害や呼吸器、膀胱に対するはたらきは、地龍が土の中を突き進んで自ら道を切り開いてゆく様から、人体に必要なものが通るための道筋である経絡(けいらく)の詰まりを突き崩して、経絡の通りをよくするためと考えられます。

生薬はもともとその土地の気候風土に根ざしたもので、その土地で習慣的に使われてきたという背景もありますが、日本は大陸からの渡来人によって古くから大陸の医学の影響も受けていました。今では到底使うことのできない「龍歯(りゅうし)」という生薬があります。これはナウマンゾウの歯の化石で、生薬として世界で現存するものは、大陸ではなくなんと正倉院にあるとされています。

ですから、もしかしたら地龍が呼吸器によいことを聞きかじった座頭が、自分の境遇と重ね合わせて、このような説話を語り伝えたのかもしれません。

2004/09/05【熊猫芽便り88号】

 

8.笑う門には福来たる

昨今のお笑いブームで、TV各局お笑い番組が目白押し、お笑いライブは大盛況とか。小さい頃から、吉本新喜劇をはじめ各種お笑い番組を見て育った私としては嬉しい限り。夫もお笑い好きなので、仕事などで見れない時は録画して楽しんでいます(≧∇≦)

この「笑う」という行動には、種々の効用がある事が研究され、最近では以下のような効果があるとされています。

・NK細胞を活性化して、免疫力をアップする。
・エンドルフィンを分泌させ、痛みを和らげる。
・代謝を促進する。
・呼吸が深くなり、肺の酸素の量が増加し、細胞や血管の老化を防ぐ。
・海馬の血流量と酸素の量を増加させ、脳の老化を防ぐ。
・平滑筋や横紋筋を鍛える。
・副交感神経を刺激して、リラックスさせる。

「中国医学」では笑う=喜ぶと考え、「喜ぶ」という感情は、心と深い関係があるとされます。

五行の色体表:人体
 
http://ookawashouten.com/zhongyi/yingyangwuxing.htm#wx

「中国医学」でいう心は、血液や血行を主るだけでなく、汗を主り、ま
た精神や思惟活動の大元としても大切な役割を果たしています。


 http://ookawashouten.com/zhongyi/zanfu.htm#xin

適度な喜び(笑い)は、心のはたらきをよくして、血液の生成や血行を促進し、発汗を調節し、精神を安定させるといわれます。

現代医学で笑いの効果とされる、代謝促進・血流改善・リラックスなどの効果は、正に、笑いによって心のはたらきがよくなったことによると考えられます。

また「中国医学」では「通じざれば則ち痛む」という原則があり、痛みの原因は滞りと考えますが、これも血流量がアップすれば自ずと滞りが取れて、痛みが和らぐと考えられます。

心は肺とともに体の上部に位置し、お互いに血液と呼吸を通して協力しあっていますが、肺は「中国医学」では衛気(えき)と呼ばれる免疫に関係した気を主っており、心のはたらきがよくなれば、肺のはたらきもよくなり、免疫力も高まると考えられます。

衛気
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但し、「中国医学」では何事に於いても、過ぎたるは及ばざるが如しの考えがあり、喜びすぎる…つまり、ずーっとへらへらしているのもよくないとしています。喜び(笑い)すぎると心の気が緩み、心身に必要なものが失われるとされます。

例えば、嬉しいことや楽しいこと続きで始終へらへらしていると、ケアレスミスを連発したり、上の空になったりすることがあります。これは喜びすぎて心の気が緩み、精神面が不安定になったためと考えます。極端な例では、宝くじで1等が当たり、嬉しさのあまりショック死…なんていうのも、嬉しさが度を超したために必要なものが一気に失われた悲劇といえるでしょう(T_T)

とはいえ、現代社会はストレスも多く、精神的にも肉体的にもダメージが多いのが現実。TVでもビデオでも本でもマンガでも何でも見て、1日1回はよく笑うようにしましょう!つまんなかった日でも無理にでも笑うと心身を活性化できますヨ(*^_^*)

2004/09/15【熊猫芽便り89号】

 

9.香りの効果を探る

ここ数年、化粧品会社が香りを香りとしてではなく、リラックスや集中力アップ、ダイエット、美白、保湿などに利用する研究が盛んです。

飲めば覚醒作用があるコーヒーも、種類によっては香りはリッラクス効果があったり、グレープフルーツの香りは脂肪の蓄積を抑えたり、チョコレートの香りにはメラニンの生成を抑制したり、と新しい効果がいろいろと発見されています。

中国医学では、香りは重要な意味を持ち、薬効と極めて密接な関係があるとされます。香りには、気血の巡りをよくしたり、邪気を散らしたりするはたらきがあるとされ、生薬の分類にもそれは現れています。

例えば、その名もずばり「芳香性化湿(ほうこうせいかしつ)」というものがあり、蒼朮(ソウジュツ)・厚朴(コウボク)・縮砂(シュクシャ)などの生薬がここに分類されます。

蒼朮はオケラという植物の根を乾燥させたものですが、これはその香りによって胃腸のはたらきを調えたり、水分代謝を促進するために用います。夏の季語に「蒼朮を焼く」というのがありますが、これは正にこの蒼朮のこと。今はほとんど見ることはありませんが、昔は湿気の多い時期に蒼朮を燃やして、家の中の湿気を散らしたので、夏の季語に用いられています。縮砂も蒼朮と同じようなはたらきがありますが、お香の原料としても用いられる非常に香りの強い生薬です。

気血の巡りをよくして代謝を促進したり、心身をリラックスさせる「理気(りき)」の分類には、蜜柑の皮を乾燥させた陳皮(チンピ)や、薔
薇の花を乾燥させたマイカイカ、お香として有名な白檀(ビャクダン)や沈香(ジンコウ)があります。どれも気や血液の巡りをよくして、リ
ラックスさせたり、水分代謝や血行を促進したり、痛みを緩和するはたらきがあります。

寒さや風、乾燥など外的環境から受けた影響を散らして除く「解表(げひょう)」には、紫蘇の葉を乾燥させた蘇葉(ソヨウ)や生姜(ショウ キョウ)、菊花(キクカ)、薄荷(ハッカ)などがあります。どれも香りによって外から受けた悪影響(邪気)を散らすと考えられています。。

滞った冷えを取り除く「温裏散寒(おんりさんかん)」の中には、肉桂(ニッケイ)つまりシナモンや胡椒(コショウ)、花椒(カショウ)などのスパイスが多く含まれ、香りが役割の一端を担っています。

中国医学には何千年と培ってきた香りのはたらきがあります。今後、香りの現代科学的な研究が進み、中国医学で利用する生薬のはたらきについても、現代科学的見地から情報が得られると、もっと世界が広がって楽しいナ…と思う今日この頃です。

2004/09/25【熊猫芽便り90号】

 

10.重陽節は菊観ではなく健康を祝う節句

昔々、中国の汝南県で疫病が大流行し、多くの人命が失われ、また死なないまでも病に苦しむ人が街中に溢れました。そんな中、恒景という若者が疫神を退治して人々を救うために旅立ちました。彼は数多の困難を乗り越えて仙人に会い、疫神退治の方法を授りました。

帰郷した彼は、仙人から教わった通り、9月最初の9の日に故郷の人々と高い山を目指します。山頂に着いた人々は、1枚の茱萸の葉を持って菊花酒を一口干します。すると疫病は去り、これ以後疫病に罹ることもなくなりました。
更に恒景は、仙人より賜った青龍剣をもって疫神を倒し、疫病を根絶することができました。

このロールプレイングなお話が「重陽節」の始まりとされています。

この故事に基づき、後の人々は疫神討伐を祝い9月9日には、手に茱萸の枝を携えて登山し、山頂で菊花酒を飲むようになったといわれます。また歴代王朝の王宮では、9月9日には「菊花宴」を催して、家臣たちに菊花酒を振るまったとか。

現代の中華圏では、旧暦9月9日重陽節とはいわず「老人節」として、ご年配の方々が山登りをして、年をとってからも健康であることを祝う日とされています。

因みに重陽節の名前の由来は、陰陽の考えに基づきます。「9」は奇数なので、陰陽では陽に当たりますが、その陽の数の中で最も大きく、この数が重なるため「重陽」といいます。

生薬では、山茱萸(さんしゅゆ)を補腎薬(ほじんやく)として繁用しますが、これは生命の源であり、免疫力などにも関係する腎を補うお薬です。茱萸の葉を持って登山したのには、きっと生命力を益し、免疫力を高めることを祈ってのことでしょう。山茱萸の入った有名な漢方薬には、八味地黄丸(はちみじおうがん)があります。


 
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また菊花には、清熱解毒(せいねつげどく)というはたらきがあります。お酒自体、清めるはたらきがありますし、こちらは体に侵入した疫病の毒を除くことを祈ったと考えられます。菊花と山茱萸の入った有名な漢方薬には、杞菊地黄丸(こぎくじおうが
ん)があります。また菊花は目やストレスによる症状によいとされ、現代人にはちょーオススメの中国茶です。

日本には菊花宴の風習だけが伝わり、9月9日に菊を愛でつつ菊花酒を頂く「菊花の佳節」として定着しました。

『雨月物語』にある『菊花の約』からは、中国の故事を窺い知ることはできませんが、左門と宗右衛門の誠実さには心打たれるものがあり、秋の夜長のお茶の友には最適です。これをベースに描かれた木原敏江さんのの『花伝ツァ』も、耽美で甘美な世界が広がり、オススメの1冊です。

貢菊花のお茶を頂きながら、恒景や左門に思いを馳せてみるのもいいかもです。

2004/10/05【熊猫芽便り91号】

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