気血津液学説

中医学の自然界・人体における最も基本的な考え方について、なんとなく感じはつかめたでしょうか。この章から人体に的を絞って、更に詳しくお話ししてゆきましょう。

中医学では、人体は気(き)・血(けつ)・津液(しんえき )・精(せい)・神(しん)という成分により構成されていると考えます。大雑把にいえば、生体エネルギー血液津液血液 の構成成分でもある正常な体液成分根本となる生命エネルギー情緒・感情などの精神的要素と考えて下さい。これらの成分がバランスよく 、心身に充分満たされ、うまくはたらくことで、人体は健康を維持できると考えます。

これら人体の構成成分についての学説を気血津液学説といいます。

 

薬性のところで気(性)ということばが出てきましたが、今回お話しする「気」は「気(性)」とは性質の異なるもので、「元気」や「気功」などから連想される「気」に近いものです。

気血津液学説でいう気にはふたつの意味があります。ひとつは、目に見えないほど小さいものの心身を構成する最も基本的な物質、もう ひとつは、人体の生理機能(作用)そのものです

消化管を例に取ってみると、前者は物質ですから胃腸など消化管そのものを指し、後者は生理機能である消化吸収機能を指します。

物質としての気には、食べ物の持つ水穀精微の気 (すいこくせいびのき)・空気中にある大気中の精気 (たいきちゅうのせいき)・人体の宗気(そうき)・衛気(えき)・営気(えいき)・元気(げんき)などがあります。これらについては後ほど詳しくお話ししましょう。

 

気の作用

生理機能(作用)としての気は、内臓や経絡のはたらきを示すことが多く、五臓六腑の名前を取った肝気 (かんき)心気(しんき)脾気(ひき)肺気(はいき)腎気(じんき)胆気(たんき)胃気(いき)経気(けいき)などといいます。

内臓のはたらきや新陳代謝など身体のはたらきは、中医学では基本的に以下の六つの気の作用によって行われていると考えます。

@営養(えいよう)作用
食べ物や空気中から得た気から作った営養物質で、全身の生理機能の営みを促進するはたらき。

A推動(すいどう)作用
内臓組織の活動や血行などを推し進め、促進するはたらき。

B温煦(おんく)作用
体を温めたり、温めることにより代謝を促進するはたらき。

C防御(ぼうぎょ)作用
病気に対する免疫力や外界の変化に対する抵抗力を作り、身体を守るはたらき。

D固摂(こせつ)作用
生理機能を営むのに必要な気血津液などの物質が、身体からが失われないように調節するはたらき。

E気化(きか)作用
食べ物や空気中から得た物質を身体に必要な物質を作り変えたり、老廃物を排泄できる状態にしたりする新陳代謝のこと。

私たちは絶えず呼吸をし、毎日食事をします。こうして体内に取り込んだ酸素や食べ物から、気化作用により心身に必要な栄養物質を作ります。この栄養物質は営養作用によって全身を養います。呼吸や血液の循環などスムーズに行えるのは推動作用があるからです。身体は温まると代謝が促進されますが、これは温煦作用によるものです。気温や湿度の変化、細菌やウィルスなどの微生物など外的環境から身体を守ることができるのは防御作用によります。消化した残りカスや古い細胞、二酸化炭素などはやはり気化作用によって大小便や汗、呼吸として 体外に排泄されます。しかし過剰に排泄が行われたり、血管以外の場所に血液が漏れたりすることは心身のダメージになりますから、固摂作用によって調節されています。

このように、六つの気の作用は、人体が生命を維持してゆく上で、決して欠くことのできない基本的な作用です。

 

気の運動

同じく薬性のところで、昇降浮沈と いうことばの説明をしましたが、この時、気には四つの基本的な運動昇降出入(しょうこうしゅつにゅう)があ り、それぞれ上下内外の四方向に分類され、昇(上)と降(下)出(内)と入(外)が対応し てバランスを保っているところまでお話ししました。

五臓六腑の気は、以下の例のように、この四方向に運動しています。

臓腑 はたらき 気の運動(方向)
昇発気機
しょうはつきき
肝は気を上昇させる。
主疏泄
しゅそせつ
肝は消化・血行や体内物質の流れ・内臓のはたらきなどを促進・調節する。
主昇清
しゅしょうせい
脾は大気や食物から作ったきれいなものを上昇させ、内臓を所定の位置に保つ。
主宣発外合皮毛
しゅせんぱつがいごうひもう
肺は栄養物質や代謝産物を体の表面に運ぶ。
主粛降
しゅしゅくこう
肺は栄養物質や代謝産物を下行させる。
主納気
しゅのうき
腎は栄養物質や代謝産物を体内に運んだり、下行させたりする。
主封蔵
しゅふうぞう
腎は体に必要なものを貯蔵する。
主和降
しゅわこう
胃は食べ物を下行させる。

中医学では、外界と人体 、人体内部の体内物質のバランス、内臓のはたらきなどすべてのバランスを大切にします。ですから各臓腑も、その臓腑ひとつだけをみるのではなく、その臓腑以外のいろいろな臓腑と関連を持ちながらはたらいていると考えます。

胃の調子の悪い人を例にとって考えてみましょう。現代医学・西洋医学ではほとんどの場合、胃が悪い時、胃を中心に検査・診断し、治療を施してゆくでしょう。しかし、中医学ではたとえ症状が胃にあっても、胃だけに病があるとみるのは稀で、胃と連動するすべての臓腑に原因 がないか探ります。たとえば、ストレスにより肝の機能が亢進すると昇発のはたらきも強くなります。すると、相対的に胃の和降は弱くなり、悪心や嘔吐が現れたりします。 この場合、中医学では胃の不快な症状を取りつつ、同時に、胃の調子を崩す根本原因である肝のストレスによる機能亢進を取り除く治療も施します。

ミクロを追求する現代医学・西洋医学と、グローバルな視点でみる中国医学の大きな違いがここにあります。

上の表を踏まえて、五臓六腑の係わり合いを下の表にまとめてみました。

関係の例】

臓腑 正常な状態 バランスの崩れた状態
肝と肺 肝は気を上昇させ、肺は気を下行させる。 肝の上昇作用が強すぎるか、肺の下行作用が弱いと、咳が出たり、えづいたり 、呼吸困難になったりする。
肝と胃 肝は気を上昇させ、胃は食べ物を下行させる。 肝の上昇作用が強すぎるか、胃の下行作用が弱いと、げっぷが出たり、嘔吐したりする。
脾と胃 脾は営養物質を上昇させ、胃は食べ物を下行させる。 脾の上昇作用が強すぎるか、胃の下行作用が弱いと、げっぷが出たり、酸っぱい水が上がってきたり、嘔吐する。
逆に脾が弱いか胃が強すぎると、下痢したり、内臓下垂になる。

関係の例】

臓腑 正常な状態 バランスの崩れた状態
肝と腎 肝は代謝を促進し、腎は必要な物質を貯蔵し 、体内物質の生成・使用・貯蔵のバランスを保つ。 肝が強すぎたり、腎が弱いと内臓の機能亢進が起こったり、体内物質がもれ出て疲れやすくなったり、分泌物が増える。
肺と腎 肺が呼気を、腎が吸気を主り、呼吸をスムーズにする。 肺が弱いと吐くのが苦しく、腎が弱いと吸うのが苦しい呼吸困難や喘息になる。

先の胃の例で考えてみると、例え胃に不快な症状があったとしても、胃のはたらきの低下によるものなのか、胃に異常があるのではなく、関係する臓腑とのバランスに異常があるのか、原因はいろいろ考えられるわけです。 更に、胃と他の臓腑とのバランスの崩れが原因の場合、なぜそうなったかを個人の心身のバランスや、外界とのバランスを基に考えます。

明日は初めてのダンスの発表会です。そのせいか胃がシクシク痛んで、食欲もありません。ほとんど食べ物を口にしていないのに、げっぷが出て、ときどきえづいてしまいます。 特に体は冷えものぼせもありません。口にするものも温かくても冷たくても構いません。食欲はありませんが、このままではダンスする体力が無くなってしまいます。これは緊張によって肝の上昇作用が強くなりすぎ、相対的に胃の下行作用が負けてしまったことが原因と考えられます。つまり胃自体は悪くないのです。

こんな時にはどうすれば良いでしょう?

まず寒熱のバランスは崩れていませんから、気(性)はになるもので良いでしょう。味は緊張を緩和する甘いものや、発散の作用のある辛いものが 必要です。帰経はもちろんに入るものです。昇降浮沈を考えると、症状は上方向に向かって出いていますから、降ろす作用のあるものを 選びます。効能効果としては、もちろん肝のはたらきを正常にして胃を整えるものです。

というわけで、今夜のメニューは…

○だいこんと春菊の和風リゾット
○はちみつミントティー

このメニューなら寒熱の偏りはほとんどありません。米とはちみつは甘味、だいこん・春菊・ミントは辛味です。
帰経は肝・胃です。だいこんには気を下行させる作用がありますし、春菊やミントも散らすことにより、体内の流れをスムーズにします。ミントはリラックスさせるはたらきがありますし、だいこん・春菊は消化を助け、胃のはたらきを整えます。

このように、何か症状が現れたらグローバルに原因を探り、 それに合わせて気味・帰経・昇降浮沈・効能効果の当てはまる食物や生薬を選ぶことで、症状の快復に努めることができます。

 

気の種類と生成

人体にある物質としての気は、大きく四つに分類され、それぞれ原料やはたらきが異なります。

気の種類 原料 関係する臓腑 はたらき
宗気
(そうき)

大気中の清気
(エネルギー)

水穀精微の気
(飲食物のエネルギー)

肺・脾 @推動作用によって呼吸や発声を主る。

A推動作用によって心拍や気血の流れを主る。

営気
(えいき)
水穀精微の気
(飲食物のエネルギー)
@気化作用によって血液になる。
  営気+津液→血

A経脈を通して全身に行き渡り、営養作用にっよって身体を養う。

衛気
(えき)
水穀精微の気
(飲食物のエネルギー)

腎中の陽気
(腎に蓄えられている熱エネルギー)

脾・腎・肺 @防御作用によって身体の表面を保護し、邪気(病気の原因となるもの)と戦う。

A防御作用営養作用にっよって皮膚や体毛を潤し、つややハリを与える。

B固摂作用によって発汗を調節して体温調節を助けたり、邪気が体内に侵入しないようにする。

C温煦作用によって体温調節を行う。  

元気
(げんき)
先天の気
(両親からもらった有限のエネルギー)

後天の気
(水穀精微の気により二次的に補給されるエネルギー)

生命活動の源となる。

上の表から、基本的に人間は、両親から与えられたエネルギー・空気・食事の三つから生命活動に必要な気を作り出し、維持していることがわかります。ですから、受精したときに両親のどちらか一方でも心身が不健康な状態だったり、或いは空気の汚染された場所で長い間生活をしたり、食事の不摂生や偏食が続けば、心身はたちまちバランスを崩してしまします。もちろん気の生成に関わる臓腑がバランスを崩して いれば、良い気を作ることはできません。

工業地帯や高速道路の近くで生活したり、粉塵の多く出る環境で仕事をしている人の中には、他の地域で生活する人に比べて、肺や気管支など呼吸器系の病気にかかったり、高血圧や動脈硬化など血液の病気にかかる人が多い場合があります。これは本来、大気中からもらうべききれいな気(清気)の代わりに 、汚染されたものを吸い込んでいたために宗気ができず、推動作用が低下して、呼吸や発声に障害がでたり、血行が悪くなって血液循環に障害がでるためと考えられます。

無理なダイエットをしたり、 長い間、不規則な食事、偏食などをしていると、体力が低下し、身体が疲れやすく、気力もなくなってきたり、落ち着きがなくなってきたりします。これは営気の原料である飲食物からのエネルギーが不足したために、充分な営気ができず、心身を営養できないからと考えられます。原料不足の状態が長く続けば、気化作用も低下してしまいます。

同じく食事の不摂生があると、衛気の生成も不十分 になり、防御作用・固摂作用が低下して、免疫力・抵抗力が落ち、風邪をひきやすくなったり、感染症をおこしやすくなってしまいます。固摂作用とともに温煦作用も低下しますから、ちょっと動いただけで汗をかいたり、体温調節ができなくな ることもあります。また防御作用・営養作用の低下に伴い、髪の毛や肌もカサカサになります。

受精の時に両親のどちらかが心身のバランスを崩していたり、赤ちゃんの頃に大病をしたりすると元気 の不足すなわち生命活動の源が不足が起こり、発育不全や老化に伴う症状、精神症状、あるいは生殖に何らかの症状が現れる場合があります。

もともと元気は両親から送られた有限のエネルギーで、飲食物から二次的に 補ってゆくものですが、それが追いつかない場合や、発育不全で二次的なエネルギーが作れない場合にも同様の症状が見られることがあります。

清浄な空気と三度の食事。これは人間が 正常な生命活動を行ってゆく上で、最低限必要なもので、最も大切なものです。ところが、現代人にとっていろいろな意味で大変難しいものとなってきて いるのが現実です。心身ともに健康で充実した人生、元気な日本を願うなら、できうる限り気を付けたいものです。

気は四種類

 

中医学でいう血(けつ)とは、脈中を流れる赤い液体で、身体を構成したり、生命活動を維持するための基本的物質と考えます。つまり、現代医学・西洋医学の血液とおおまかには同じであると考えていただいて結構です。

気のように細かな分類はありませんが、やはり中医学独特の考え方が基本となっており、現代医学・西洋医学の血液と異なるはたらきや特徴があります。

 

血の作用

血にはふたつの作用があります。ひとつは現代医学・西洋医学の血液と同じく、身体のすみずみまで行き渡り、五臓六腑(内臓)・皮膚・筋肉・骨など身体の構成成分を滋養する作用です。 もうひとつは、精神面を養い、精神活動や思考が正常にはたらき、五官や手足が正常にはたらくようにしている作用です。

血は血脈(けつみゃく)を通して全身に行き渡り、一旦、血脈から外れた血は正常な血ではなくなると考えます。

血液が不足すると、筋肉疲労を起こしやすくなったり、髪の毛や爪が乾燥して弱くなったりすることがあります。これは身体を滋養するに足る量の血液が不足したために現れる症状で、現代医学・西洋医学でいう貧血(赤血球の不足)でも見られます。

たとえば、大けがをして大量に出血した場合、意識がだんだん薄れ、気を失ってしまうことがあります。中医学では、これは精神面を養うための血が出血により失われたために起こると考えます。 他に、女性が月経の前後で情緒不安定になったり、食事の不摂生などで血液不足になると眠りが浅くなったり、動悸がしたりするのも同じ理由と考えます。

 

血の生成と循行

血の生成には二つのルートがあります。

原料 生成過程
飲食物

         飲食物

   ↓
六腑 消化・分別
   ↓ 
営気・津液を作る
   ↓
営気+津液+心の気
   ↓
   血
   ↓
全身       滋養
      貯蔵

 
   

から摂った飲食物は、胃をはじめとする六腑のはたらきにより消化・分別され、体内物質の工場である脾に運ばれます。

では飲食物より取り出された気を原料に、身体に必要な気や津液などをつくります。脾で作られた営気と津液から血がつくられますが、まだこの状態でははたらくことができません。

これらはに運ばれ、心の気を受けることにより、赤くなり、血としてのはたらきも授かります。

心でできた血は、全身に運ばれ身体や精神を養いますが、一部は貯蔵されます。

腎精
(元気)

       



 

腎精つまり元気は両親から与えられ、また飲食物によっても補われますが、これは生命活動の源ですから、ここからも血がつくられています。

腎精からは、他に髄や脳も作られますが、現代医学的に見ても、血液は骨髄からつくられますから、それを思い出せば難しくないでしょう。

腎精は有限のものですから、飲食物から作られて肝にストックしてある血からも補われています。

「肝腎同源(かんじんどうげん)」「精血同源(せいけつどうげん)」といって、肝と腎の間では、常にお互いを補い合っています。

血の循行には、主に脾・心・肝・腎の四つの臓腑が関係します。

─→ ─→ 全身
     
──    
    ↓↑     
       

主運化
しゅうんか
飲食物の気から、血液の原料である営気や津液をつくる。
主統血
しゅとうけつ
血が脉外に漏れでないようにする。
主血脉
しゅけつみゃく
脾でつくられた営気と津液に心気を帯びさせ、血をつくる。
推動作用により、全身に血を循環させる。
主蔵血
しゅぞうけつ
血を貯蔵し、血の量を調節する。
一部は腎精をつくる。
主疏泄
しゅそせつ
脾の運化を促進する。
部)
主蔵精
しゅぞうせい
腎精を貯蔵し、腎精から肝血をつくる。

中医学では、血は飲食物や腎精からつくられ、上の四つの臓腑と深く関係していると考えられています。ですから、食事の不摂生や腎精の不足など原料不足があっても、また脾・心・肝・腎など関係する臓腑のバランスの崩れ によっても不足すると考えられます。

現代医学的には、血液の成分やその比率を調べることはできますが、絶対量を調べることは危険が伴うため、ほとんど行うことはありません。 仮に絶対量を調べた結果、それが数値的に充分であっても、その人の健康維持や病気の治療に充分かどうかは別問題です。よく耳にする 「貧血」という症状も、「血が貧しい」とは書きますが、実際には血液の構成成分のひとつである赤血球の不足を指します。

貧血はなくても血液量が不足ところが中医学では、原料の不足や各臓腑のバランスの崩れを知ることで、血の絶対量の不足 や、正常な生理活動を行うのに充分かどうかまで見てとることができます。現代医学的には貧血でない人でも、中医学的には実は血液不足という人はたくさんいます。

切れ毛が多い・頭痛・めまい・立ちくらみ・頭がぼーっとする・顔色が白かったり、くすんで黄色がかっている・疲れ目・動悸・不眠・手足がしびれる・爪が割れやすい・皮下出血しやすい(アザができやすい)・生理が遅れる

これらはすべて血液不足の症状です。

好き嫌いが多い・無理なダイエットなど食事の不摂生がある。生まれたとき未熟児だったか、あるいは赤ちゃんのころ大病をしたなど腎精不足があった。脾のバランスが崩れていて、原料があってもつくり変えることができないか、統血できず出血傾向になっている。心のバランスが崩れていて、つくれないか全身に循環できない。肝のバランスが崩れていて、貯蔵できない。どれかひとつでも、また複数でも血液不足の原因になります。

血が足りなくなると、身体ばかりか精神まで病んでしまうこともあります。時代背景や教育、環境の問題は無視できませんが、キレやすい人は案外、食事や身体のバランスを調えることで、キレにくくなるかもしれません 。

 

津液
津液(しんえき)とは正常な体液成分のことで、細胞液をはじめ、 内臓に含まれる液体、関節液、リンパ液、羊水、涙、鼻水、唾液、よだれ、汗などの液体成分はすべて津液ということができます。

 

津液の作用

津液は体液成分ですから身体を潤し、血液の構成成分としても重要な役割を果たしています。

津液は津(しん)液(えき)から成り、常に互いに転化しています。

稀薄で流動性に富むため、気血とともに、皮膚・筋肉・目・耳・鼻・口・肛門・陰部・血脈(血管)など体中を循って、滋養したり、潤したりできる。

 転化 

粘稠で流動性に乏しいため、気血とは同行せず、脳・骨髄・関節・内臓などに留まって、営養する。  

津液の生成と循行

津液の生成・循行には、脾・肺・三焦・腎・膀胱などの臓腑が関係します。

─→ ─→ 三焦 ─→ 全身
    ↓↑  
── ── ── 膀胱
  脾の温化を
促進
 
        ──
        再吸収

主運化水液
しゅうんかすいえき
飲食物の気から津液をつくり、運搬する。
主昇清
しゅしょうせい
できた津液を体の上部にある肺に運ぶ。
主宣発
しゅせんぱつ
体の上部や表面に津液を散布する。
主粛降
しゅしゅくこう
体の下部に津液を降ろす。
通調水道
つうちょうすいどう
津液の運搬を調節する。 
三焦   津液を全身に運ぶための通路。
主水
しゅすい

 

津液の輸布や尿の貯蔵・排泄を調節する。
膀胱に貯蔵した尿から利用できるものを再吸収する。
膀胱  

 

尿を貯蔵し、排泄する。

津液は、血同様飲食物を原料に脾で作り出され、上の五つの臓腑のはたらきによって、全身に輸布され、代謝されると考えられています。人間のからだのほんとんどは水分ですから、津液の生成や循行のバランスが崩れると、健康が損なわれます。

食事の不摂生臓腑のバランスの崩れ、あるいは発熱やひどい嘔吐下痢外界の乾燥などで津液が不足すると、髪の毛や皮膚の乾燥・粘膜の乾燥・乾燥による痒み・耳鳴り・足腰のだるさ・口の渇き・尿が少なく色が濃い・便秘・精力減退・寝汗・不眠などの症状が見られます。

また食事の不摂生臓腑のバランスの崩れは、水液代謝を低下させ、身体に不必要な水分がたまり、むくみ・身体の重だるさ・食欲減退・下痢・咳・痰・胸苦しさなどの症状を引き起こすこともあります。

私たちのからだの大部分を占める水分ですが、必要な体液成分を充実させ、不必要な水分を代謝することが健康維持にも美容にも必要なことです。

 

精(せい)とは、生命活動の源、つまり先にでてきた元気もこの一部です。

精には、両親から受け継いだ有限先天の精と、飲食物から理論上無限に作られる後天の精の二つがあります。

先天の精は腎精(じんせい)または元気とも呼ばれ、単に「精」といったときには腎精 (先天の精)のみを指す場合があります。

先天の精は、生を受けたときに両親より受け継ぎ、に貯えられます。両親からの贈り物である先天の精は、限られたものです。しかしこの中には、生物の発育・成長・生殖に関わる大切なエネルギーが蓄えられています。言い換えれば、両親から受け継いだすべての遺伝子情報と、それを作動させるためのエネルギーが詰まっている といえます。

ですから、受精の時、両親が不規則な生活を続けていたり、食生活が乱れていたり、身体の調子が良くなかったり、あるいはストレスがあったりすると、子供は充分な先天の精を受けられず、虚弱だったり、アレルギー体質だったり、発育不全が起こることもあります 。

生殖とも深い関わりのある先天の精は、天癸(てんき)というものを生み出し、ある年令に達するとそれが満ちて性徴が現れます。

男性は8の倍数、女性は7の倍数ごとに、その節目を迎えるといわれています。たとえば、男の子の声変わりは8歳くらい、女の子の初潮は14歳くらいです。 また更年期は、男性では56歳くらい、女性では49歳くらいで迎えます。 尚、この年齢は数え年が基準で、また多少の個人差があります。

先天の精は有限ですから、歳を重ねるに従って衰えてゆきます。それが老化現象を引き起こすと考えられます。 それほど歳を取っていなくても、同様の症状が見られる場合は、この先天の精の不足が考えられ、逆に年齢の割に身体能力などが若い場合には、先天の精が充実していると考えられます。

後天の精は、飲食物からが作り出すエネルギーです。ですから、飲食物が供給され、脾のはたらきが正常であれば、理論上無限に作り出すことができます。後天の精は全身を営養し、その一部は腎にも届いて、有限である先天の精を補っています。

  
  先天の精 後天の精
関係する臓腑
起源 両親 飲食物
限度 有限 無限
はたらき 発育・成長・生殖 生理活動
先天の精の補充

先天の精と後天の精の関係

有限の先天の精を、理論上無限の後天の精が補っていることは先にもお話ししましたが、生命の根源に関係する先天の精が、一方的に補われているわけではありません。

からだは温まることによって代謝が促進されていることはいうまでもありません。私たちのからだには基礎代謝というものがあり、常に生命を維持するために必要な代謝が行われています。運動や食事、お風呂に入るなどして特別からだを温めなくても、安静時も自然に呼吸をしたり、血液を循環させたり、最低限必要な代謝を行っています。また変温動物と違って、私たちは常に一定の体温を保つことができ ます。これは、先天の精である腎精から、腎陽(じんよう)という身体を温める大元の熱エネルギーが作り出されているからです。この腎陽は脾を温め、脾のはたらきを促進し、後天の精を作る手助けをしています。

後天の本

 無限の精で有限の精を補充

温めて脾のはたらきを促進 

先天の本

もともと先天の精が不足していなくても、食事の不摂生や病気などで飲食物がきちんと摂れなかったりすると、 後天の本による補充が不十分になり、発育がよくなかったり、月経が不順になったり、男性でも女性でも不妊になったり、先天の精の不足による症状が見られることがあります。 また先天の精の不足は、発育不全や老化現象を引き起こすだけでなく、身体の冷えや食欲不振の原因になることもあります。

 

神(しん)にも、気や精と同じく ふたつの意味があります。ひとつはすべての生理活動を主宰してそれを体外に表現するもの、もう ひとつは精神活動そのものです。

中医学 では、生物が「生きている」ということは、肉体の存在やそのはたらきだけではなく、精神も充実しているということ、つまり心身ともにいきいきしていることだと考えます。心身ともに健康で輝いている状態を有神(ゆうしん)、目に輝きがなかったり、顔色や声に元気がなかったり、生彩を欠いた状態を無神(むしん)といいます。
こ の場合の「神」が前者です。

有神無神

後者でいう神とは、精神・意識・思惟活動すべてを指します。以下、生成と運用はこの精神活動としての神についての説明です。

 

神の生成と運用

身体を形成する気・血・津液が飲食物から作られるのに対し、精神面を形成する神は、先天の精すなわち腎精から作られます。

生物は、母親の胎内にいる時点から感情を持つといわれています。妊娠中、母親が胎教に気を使うのもこのためです。この世に生を受けた時点で、精神面も徐々に形成されてゆくわけですから、飲食物から作られるのではなく、両親から受け継いだ腎精がその原料と考えるのが妥当でしょう。腎精から作られた神は、腎に留まらず、をその安住の場所とします。恋をして胸が苦しくなったり、「胸に手をあてて考え」たりするのはこのためです。

心はまた血脈を主りますから、心で作られた血は、身体のみならずこの神をも営養します。精神面を営養するというと、不思議に思われるかもしれません。で も、以下のような場合を思い浮かべて見てください。
多量に出血したり、飢餓状態が続くと、意識が朦朧としてくることがあります。女性は月経中やその前後、あるいは妊娠中に精神状態が不安定になることがあります。これらは、血の不足によって、神が営養されないために起こると考えられます。

ところで中医学では、肝は生理活動がスムーズにゆくようコントロールしている臓腑と考えられています。この肝は、五行の「木」に当たり、木が枝を上や外に向かって伸ばしてゆくように、もともと伸びやかで、リラックスを好むと考えられています。 そのため中医学でも、現代医学同様、肝はストレスの影響を受けやすい臓腑と考えられています。

もし、肝にストレスの影響が出ると、精神面もコントロールが効かなくなり、神が不安定な状態になります。また肝は、血の貯蔵庫でもありますから、ストレスの影響でそのはたらきも低下し、心に血を補充することができなくなったりします。 更に心肝の気血や腎精は、脾が生成し補充していますから、脾のはたらきも重要なポイントです。

 

   ┌

─→ ←─

   ┐

|  

 ↑神

  |

|      

   └

── ── ──

   ┘

主神志
しゅしんじ
腎精より作られた神を心気で守り、心血で養って、精神を安定させる。
主血脉
しゅけつみゃく
脾でつくられた営気と津液に心気を帯びさせ、血をつくる。
推動作用により、全身に血を循環させる。
主疏泄
しゅそせつ
精神活動を促進する。心・腎など神に関係する臓腑のはたらきをスムーズにする。
主蔵血
しゅぞうけつ
血を貯蔵し、心に血を補充する。一部は腎精をつくる。
主蔵精
しゅぞうせい
腎精を貯蔵し、神をつくる。一部は肝血をつくる。
主運化
しゅうんか
飲食物から、気血精をつくる。

このように中医学では、身体と精神は切り離すことができないものとして考えます。ですから、身体のバランスが崩れても、精神のバランスが悪くなっても、最終的には両方に影響が現れると考えます。

 

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