気血津液弁証
八綱弁証が、現在現れている症状や病気の全体像を把握するための基本的な弁証方法だったのに対し、気血津液学という人体の構成成分に着目して弁証するのが気血津液弁証(きけつしんえきべんしょう)です。気血津液の状態の虚実を把握することで、現在の状態を推測します。

 

気病弁証
の状態を鑑別します。

たとえば、食事の不摂生で気が不足し、疲れやすく、体力の低下した状態は気虚症(ききょしょう)といい、気を補う補気(ほき)という方法で治療します。これが更に進 んだり、出産などで力みすぎると、中気(脾気)の重力に逆らって正気を人体上部に運んだり、内臓などを定位置に保つことができず、肌や筋肉のたるみ、胃下垂や脱肛などの内臓下垂が見られる気陥証(きかんしょう)になります。この場合は、補気 または益気(えっき・えきき)昇提(しょうてい)という上に持ち上げるはたらきを強化して治療します。これらはみな虚証です。

またストレスなどで、人体の局所の気がスムーズに流れず、脹った痛みや詰まりが現れる状態を気滞証(きたいしょう)といい、理気(りき)または行気( こうき)という方法で、気の流れをスムーズにして治療します。これが進み、気の運動である昇降に影響し、咳やげっぷがでたり、しゃっくりが止まらなくなる場合 を気逆証(きぎゃくしょう)といいます。この場合は、理気降逆(りきこうぎゃく)という方法で、昇降を正常な状態に戻して治療します。 これらは実証になります。

気病の種類と治療方法を表にまとめてみました。

種類 原因 症状 治療方法
気虚証 正気の不足。臓腑気機の衰退 食事の不摂生・過労・加齢・慢性病など 顔色がくすんで黄色っぽい・疲れやすい・倦怠感・体に力が入らない・話すのが億劫・ため息・息切れ・めまい・立ちくらみ・頭がぼうっとする・やる気が出ない・暑くないのに汗がでたり、動くとすぐ汗が出て、なかなかひかない・食欲不振・軟便・動くと症状が悪化など 補気
気陥証 中気不足 気虚証からの発展・力みすぎなど 気虚証の症状・下痢・皮膚や筋肉のたるみ・胃下垂・遊走腎・子宮脱・脱肛など 益気(補気)昇提
気滞証 局所の気の滞り 六淫七情・食事の不摂生・力みすぎなど 脹った痛み・詰まり感・ため息など 理気・行気
気逆証 局所の気の滞りにより、昇降が失調 六淫七情・食事の不摂生・力みすぎなど 咳・呼吸困難・喘息・げっぷ・しゃっくり・悪心・嘔吐・目痛・頭痛・めまい・意識不明など 理気降逆

理論上は虚実をはっきり分類することができますが、実際には気虚証であるため推動作用が低下して気滞証になった虚実挟雑証が見られることが多々あります。

 

血病弁証
の状態を鑑別します。

たとえば、月経・出産・けがなどで必要以上に出血があると、血液の絶対量が不足し、顔色が悪くなり、手足がしびれたり、動悸や不眠、不安感などが見られることがあります。これを血虚証(けっきょしょう)といい、血を補う補血(ほけつ)という方法で治療します。いわゆる貧血は、血液中の赤血球が不足した、いわば血液の構成成分の割合が悪い状態ですが、血虚証は絶対量の不足ですから、生化学検査では異常がない場合が多く見られます。 血虚証は虚証です。

打撲などの外傷や心身のダメージで、血行不良が起こるとお血が形成され、血お証(けつおしょう)となります。お血については病因・お血で既に説明してありますので、詳しい症状などは省略します。治療は、血行を促進してお血を取り除く活血化お(かっけつかお)という方法で行います。ストレスや六淫が滞った結果、血が熱を持った状態血熱証(けつねつしょう)といい、精神症状や出血、かゆみなどが現れ、症状は夜ほど悪化します。この場合、血の熱を冷ます清熱涼血(せいねつりょうけつ)という方法で治療します。 これらは実証になります。

血病の種類と治療方法を表にまとめてみました。

種類 原因 症状 治療方法
血虚証 血の不足。臓腑・経脈・神志を営養できない 失血過多・食事の不摂生や脾気不足による生成低下・七情による消耗など 顔色が蒼白い・くすんで黄色っぽい・唇が白っぽい・動悸・不眠・不安感・イライラ・手足のしびれ・眼精疲労・光がまぶしい・頭痛・立ちくらみ・爪が弱い・髪が抜けたり、痩せる・経量減少・月経が遅れる・月経がない・乳汁減少など 補血・養血
血お証 血脈から離れて停滞したり、臓腑や経絡に滞って流れにくくなった血 六淫七情・過労・加齢・慢性病など 顔色や肌の色が浅黒い・皮膚が乾燥して肌理が粗い・唇や歯茎が黒っぽいまたは紫っぽい・舌が紫がかっている・舌に紫色の斑点がある ・爪が青っぽいまたは紫っぽい・血管怒脹・チアノーゼ・刺すような痛みまたは激しい痛み・同じ場所が痛む(痛みが移動しない)・固いしこり・場所が移動しない ・押さえると痛みを感じる・触ったり、揉んだりすると悪化する・夜になるほど悪化する・血行が悪くなると悪化する・血液の色が黒っぽいまたは紫っぽい・粘りがある ・塊があるなど 活血化お
血熱証 血に熱が蓄積 六淫七情など 胸の辺りが暑苦しい・イライラ・落ち着かない・発狂・口が乾くが水分は欲しくない・出血・かゆみ・夜になるほど悪化するなど 清熱涼血(止血)

気病同様、実際は血虚証であるため血行不良で血お証に発展したり、血熱証のため血が煮詰められてドロドロになり血お証に発展するなど、複合した症状が見られます。

 

気病と血病の相互関係
気病同士、血病同士でも、複合した状態が見られますが、臨床上は気病と血病が複合した状態もよく見られます。気病と血病の複合した状態と治療方法を表にまとめてみました。

種類 原因 治療方法
気血両虚証
(きけつりょうきょしょう)
気虚証と血虚証が同時に出現
中気の不足により血が生成されないか、または血の不足により気が養えない。始まりがどちらでも、悪循環が起こる 気血双補
(きけつそうほ)
気不摂血証
(きふせつけつしょう)
出血を伴う気虚証。放置すれば気血両虚証に発展 中気の不足により固摂作用が低下して出血傾向になる 益気摂血
(えっきせつけつ)
気随血脱証
(きずいけつだつしょう)
大量出血に伴い気虚証(陽気不足)が出現 気血は一緒に人体を巡っているため、大量出血があれば気血が共に失われる 回陽固脱
(かいようこだつ)
気虚血お証
(ききょけつおしょう)
気虚証と血お証が同時に出現 気の不足により推動作用が低下して血行不良となり、お血を形成する 益気活血
(えっきかっけつ)
気滞血お証
(きたいけつおしょう)
気滞証と血お証が同時に出現 局所の気の滞りにより、血行不良となり、お血を形成する 理気活血
(りきかっけつ)

 

津液病弁証
津液の状態を鑑別します。

外気の乾燥・大汗・大量あるいは長期に渡る下痢・嘔吐などで体液を消耗したり、慢性病・食事の不摂生などで体液成分を充分に作れないなど、正常な体液成分が不足した状態津液不足(しんえきぶそく)または津液虧損(しんえききそん)といいます。主に身体の乾燥が見られ、皮膚が乾燥して痒くなったり、絶えず水分補給が必要だったり、尿量の減少、便秘などが現れます。治療には体液成分や潤いを補う滋陰生津(じいんせいしん ・じいんしょうしん)という方法を用います。津液不足は虚証です。

六淫など外的環境の影響や、七情飲食・労逸などが原因で、水分代謝が低下したり、病理産物として不要で汚い水分が停滞蓄積すると、むくみやだるさ、消化器系・呼吸器系の不調、大小便の不調などが見られます。原因や蓄積した不要な水分の状態、停滞部位などにより、水腫(すいしゅ)・痰証(たんしょう)・飲証(いんしょう)に分類されます。痰証・飲証については、痰飲水湿で既に説明してありますので、詳しい症状などは省略しますが、これらはは共に実証になります。水腫は、その原因と影響を受ける臓腑の位置により、実証陽水(ようすい)虚証陰水(いんすい)に分類されます。治療は、それぞれの状態に合わせ、利湿(りしつ)・利水(りすい)・化痰(かたん)・化飲(かいん)という方法で行います。

津液病の種類と治療方法を表にまとめてみました。

種類 原因 症状 治療方法
津液不足 津液の不足。身体を潤すことができない 燥邪・風邪・熱邪・大汗・過度や長期に渡る嘔吐や下痢・排尿過多・脾気不足による生成低下・過労・加齢・慢性病など 皮膚や粘膜、毛髪の乾燥・乾燥による痒み・口やのどの渇き・唾液の減少・しゃっくり・尿量減少・便秘・筋肉のしびれ・糖尿病など 滋陰生津
陽水
(水腫)
によりの機能失調が起こり、水分代謝が低下する 風邪・湿邪 上半身中心のむくみまたは上半身から発症し全身に広がるむくみ・身体が重だるい・悪寒・発熱・咳・痰・のどの渇き・腹部膨満感・食欲不振・尿量減少・尿の色が濃いなど 宣肺(せんぱい)・利水消腫(りすいしょうしゅ)
陰水
(水腫)
の機能失調や熱エネルギーの不足により、水分代謝が低下する 正気不足・慢性病・過剰な肉体労働・過剰な性行為 下半身中心または全身のむくみ・冷え・顔色が白っぽい・腹部膨満感・尿量減少・足腰のだるさや痛み・精神疲労・やる気が出ない・冷えると症状が悪化など 健脾利水(けんぴりすい)・温陽利水(おんようりすい)
痰証 三焦の機能失調 六淫七情飲食・労逸 悪心・嘔吐・みぞおちや胃のしこり・喘息・痰の多い咳・胸苦しい・動悸・精神障害・神経症・鬱病・認知症・しびれ・痙攣・半身不随・腫瘍など 降気化痰(こうきかたん)・豁痰開竅(かったんかいきょう)・化痰通絡(かたんつうらく)
飲証 臓腑の機能失調 六淫七情飲食・労逸 汗が出にくい・悪寒・身体痛・体表や手足のむくみ・食欲減退・腹部膨満感・胃腸がゴロゴロする・胸や脇が脹って痛む・咳による胸や脇の疼痛・胸苦しい・稀薄で多量の痰・のどで痰の音がする・呼吸が苦しくて横になれないなど 解表化飲(げひょうかいん)・温肺化飲(うんぱいかいん)・温脾化飲(うんぴかいん)

 

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