陰陽五行説
東洋の占いや、安倍晴明がが駆使した陰陽道などの基礎理念は、中医学と同じ陰陽五行説 (いんようごぎょうせつ)にあります。中医学に限らず、哲学や陰陽道、易などでも出てくる陰陽五行 (いんようごぎょう)について、最低限の基礎的なことばについてお話しましょう。

 

陰陽

インド哲学において曼陀羅が宇宙を示すように、陰陽においては太極図(たいきょくず)が宇宙を示します。これはサーファーの人たちがマークに使ったり、中華料理の盛りつけに応用されたり、いろいろなところで目にすることのできる、曲玉(まがたま)が二つ合わさったような円形(実際は三次元的空間を表現しているので球形)の図のことです。

太極図

太極図は宇宙を現しているわけですから、いい換えればこの図一つでこの世のすべてを現しているといっても過言ではありません。

黒い部分が、白い部分がと考えて下さい。陰陽は同じ大きさで現され、常にバランスを保っています。人間の身体もそれ自体小宇宙と考えますから、もしこの陰陽のバランスが崩れれば病気になりますし、陰陽が完全に分離したり、どちらか一方がなくなれば死に到ります。

【自然界における陰陽の例】

太陽

【人体における陰陽の例】

上半身 表面 六腑 身体機能 興奮
下半身 内側 五臓 体内物質 抑制

上の表からもわかるように、陰陽は相反するものの組み合わせではありますが、相対的なもので、T.P.Oによって異なります。 たとえば、男と女では男が陽ですが、男の身体を見てみると上半身は陽で下半身は陰になります。

太極図は、陰陽二つの部分が合わさってできています。たとえば、暑い季節には冷たいものが食べたくなります。逆に、寒い季節には温かいものが食べたくなります。このように、陰陽は相反する二つのものの対立によって成り立っており、これを陰陽対立(いんようたいりつ)といいます。

また太極図を見ると、陰が存在することによって、陽の存在が明らかになっていることがわかります。逆に、陽の存在が陰の存在を明らかにもしています。つまり、季節が「暑い」ということにより、「冷たい」食べ物が生きることになりますし、季節が「寒い」ということにより、「温かい」食べ物が生きることになるのです。このように、相反する一方によりもう一方の存在がわかるとこを陰陽互根(いんようごこん)といいます。

太極図の陰陽のつなぎ目は一定しているものではなく、常に増減の変化を繰り返しています。たとえば、一日の内で昼間気温が5℃であれば「寒い」と感じますが、夜更に零下になると「すごく寒い」と感じます。同じ1日の内であり、同じ「寒い」という感覚ですが、その寒さの程度は違います。このように、陰陽の程度や量が変化することを陰陽消長(いんようしょうちょう)といいます。

太極図では、陰が一番膨らんだ部分からは陽が始まっていますし、逆に陽が膨らんだ部分からは陰が始まっています。季節は絶えず巡っていますが、寒い冬はやがて暑い夏になりますし、暑い夏もやがて寒い冬へと変化してゆきます。このように、相反する一方が極まることによりもう一方に変化することを陰陽転化(いんようてんか)といいます。

外が暑い季節、キンキンに冷えたビールを飲むのは爽快です。外が「暑い」ので「冷たい」ビールが欲しくなりますし、「暑い」からこそ「冷たい」ビールをおいしいと感じることができます。でも、「暑い」夏であっても夕立の後はさほど暑く ありませんし、猛暑の日は非常に暑いでしょう。また「暑い」夏だからといって、冷たいビールを飲み過ぎると、逆にお腹を「冷やして」しまうこともあります。このように「薬膳」は普段の生活に生きているのです。

 

五行

陰陽が太極図により宇宙全体を示すものであるのに対し、五行は自然界の基本物質とその相互関係を表します。

五行の主なものを下の表にまとめてみました。

【自然界】

五行
五方 西
五味
五色
五化
五季 長夏(土用)
五気 湿
五臭 ソウ( むっとする臭い) 醒(生臭い)
五畜
五穀 黍(もちきび) ショク
(うるちきび)
五菜 薤(らっきょう)
(ふゆあおい)
カク(豆の葉)
五果

【人体】

五行
五臓
六腑 小腸・三焦 大腸 膀胱
五官 耳・二陰(尿道・生殖器・肛門)
五体 四肢 皮毛
五華 皮毛
五志 悲・憂 恐・驚
五液 涕(はなみず)

この表にあるもの、どこかで見たことがあると感じませんか。神社仏閣で見掛ける五色の旗(青→緑・白→水色・黒→紫の場合もあります)。相撲の土俵 、土俵の上の屋根の東西南北にはそれぞれの色の房が、そして中心には土でできた黄色い土俵があります。また伝統的なアジアの料理には、この五行の中の「五色」を大切にするのもが多く見られます。

では、この五行の基本物質である木火土金水(もっかどこんすい)の相互関係はどうなっているのでしょうか。

相生相剋図 →相生 →相剋

上の図の木→火・火→土…と続いている時計回りの黒い矢印の関係を相生(そうせい)といい、滋生・助長を意味し、親子のような関係を示します。

をくべることにより、は燃えることができます(木生火)
は燃えて灰を作り、灰はとなります(火生土)
はその中に 金属すなわちを育みます(土生金)
の間からはが湧き出します(金生水)
を育てます(水生木)

このように、矢印の手前のものが後のものを生み、養う関係を相生といいます。

これに対し、木→土・火→金…と続いている星形の赤い矢印の関係を相剋(そうこく)といい、拘束・抑制を意味します。

に根を張ることにより、土が流れるのを防ぎます(木剋土)
を溶かします(火剋金)
を堰き止めます(土剋水)
は道具となってを切り倒します(金剋木)
を消します(水剋火)

このように、矢印の手前のものが後のものを抑える関係を相剋といいます。

「拘束」や「抑制」というと、不自然な状態を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、たとえば、親や先輩など目上の者が、子供や後輩など目下の者が暴走するのを諭して、行きすぎを抑える のと同じです。

この相生・相剋の関係が壊れると 、自然界では異常気象や天変地異の起きる原因になったり、人体では体調や精神面での不調が出たり、ひどい場合には病気になったりします。このバランスの崩れにはふたつのタイプがあります。

ひとつは抑制が強すぎる場合で、これを相乗(そうじょう)といいます。

暑い夏に夕立があると涼しくなります。暑さを抑制するために適度な雨は必要です(水剋火) 。しかし、この雨も梅雨の延長のような長雨になれば、冷夏をもたらします(水乗火)。また暑い時、適度のクーラーは暑さでバテるのを防ぎますが(水剋火) 、過ぎれば体を冷やしすぎて、風邪をひいたり、お腹をこわしたりします(水乗火)

もうひとつは抑制が逆に働く場合で、これを相侮 (そうぶ)といいます。

一本の煙草の火を消すには、コップ一杯の水があれば充分です(水剋火)。ところが、火事で激しく燃えさかる炎にコップ 一杯の水を掛けてても、火は消えるどころか水を蒸発させ、更に延焼を続けます(火侮水)。 体液成分などの水分代謝は、体が適度に温まることで活発になります(水剋火)。しかし、熱射病などで必要以上に体が温まると、体液成分も消耗し、脱水症状が起こります(火侮水)

このように相生・相剋のバランスの崩れは、自然界は基より、人体においても悪影響を及ぼします。

さて、表を見ると、五行にはそれぞれ当てはまる臓腑や味などがあることがわかります。

詳しくはの章でお話ししますが、この表からも味自体に異なるはたらきがあると考えていることが見て取れます。

また木−肝−酸など、同じグループに属するものはとても深い関係があると考えます。

たとえば、梅干しなど酸っぱいものを食べると、口の中や体がキュッと縮まる感じがします。中医学では、酸味には収斂作用があると考えます。ところでレバーを調理する時血抜きをしますが、これはレバーすなわち肝が血液を貯める器官なので、他の臓物類よりも血を多く含むからです。酸味には収斂作用があるわけですから、これは肝の血液を貯めるはたらきを助けることができるわけです。妊婦など普段よりも血液を必要とする人が酸味を欲しがるのもこのためと考えられます。しかし、身体に良いからといって酸味ばかり摂りすぎると、収斂のしすぎで返って全身に血液を巡らすことができなくなり、 血行が悪くなったり、月経が不順になったり、体調を崩す場合もあります。

このような関係は他の四つのグループについても成り立っています。五つのグループ間でも、相生や相剋の関係があるわけですから、五つの味もバランスよく摂ることが大切です。

 

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