整体性
これまでのお話を踏まえて、この章では、実際、どのようにして個人に合った食品や生薬を選ぶかについて みてゆきましょう。

中医学では、人体はひとつの有機体、すなわち多くの組織がそれぞれに関連を持ちながら形成された固体であるとともに、それ自体小宇宙を成していると考え、 更には大宇宙である自然界と人体はとても密接な関係があると考えます。従って、各個人の内的環境は、外界である自然界の環境的要素などの影響を受けつつ絶えず変化しており、この状態こそが生命活動で、このバランスが崩れると疾病の原因になると考えます。

このように、全体がバランスを取りながら平衡を保っている状態を整体性(せいたいせい)といいます。この考えに基づき、ある 一つの現象をそれだけの問題として見るのではなく、全体のバランスから捉える考え方を整体観(せいたいかん)といいます。

中医学ではこの考えに基づき、ある1つの症状だけを治療するのではなく、全体のバランスを調えることを重視します。 ですから、似たような症状や病気であっても、個人の特徴や体質はもちろん、自然界の気候変化や住環境など外界から受ける影響など、T.P.Oも考慮した治療を行うことが大切だと考えます。

中医学では、このT.P.Oを三因(さんいん)といい、因時(いんじ)・因地(いんち)・因人(いんじん)の 三つがあります。 この三要素を踏まえて、個人にぴったり合った治療方法をセレクトします。

因時…冬因地…海沿い因人…子供

 

因時

因時とは、季節性や気候変化による違いのことで、それぞれの季節 や気候の特徴による人体の変化がポイントとなります。

たとえば春、生きとし生けるもの全てが、発生し、始動を開始する季節です。雪や氷は溶け、大地からは陽炎が立ち上ります。種は発芽し、新芽は芽吹きます。動物も冬眠から覚め、冬眠しない動物たちの代謝も活発になってきます。また心もウキウキして、他の季節に比べるとちょっとハイになったりします。春は、自然界は元より、体内でも陽気のはたらきが盛んになり、外界に向けて発散されやすい季節です。この季節、もし発散の作用のある辛いものをたくさんあるいは長期間摂るとどうなるでしょうか?陽気は体内から抜け出てしまい、 疲れやすくなったり、抵抗力が弱まったり、精神的に落ち込みやすくなってしまうことがあります。ですから春は辛いもの・スパイシイなものの摂りすぎには注意しなければなりません。

夏はどうでしょう。暑いだけでならともかく、日本の夏は湿気も多く、蒸し暑さに閉口する人も少なくないでしょう。この蒸し暑さは、夏バテの大きな原因となり、食欲不振や倦怠感、むくみなどが見られたりします。いいかえれば、この暑さと湿気を身体から追い出せば楽勝というわけです。夏は、暑気払いをして、体内にこもった熱や湿気を取り除く作用のある 食品を摂る必要があります。たとえば、緑豆。中華圏では夏に緑豆粥や緑豆茶をよく頂いて、夏バテを防ぎます。

秋になると、渇いた爽やかな風が吹き、カサコソと枯葉の立てる音も聞こえてきます。お肌や髪の毛の乾燥などが気になり始めるのもこの季節です。のども乾燥して、声がかすれたり、空咳が出る人もいるでしょう。秋は乾燥の季節です。乾燥を最もいやがる臓腑 は肺です。肺は潤いと清いものを好むので、秋の乾燥は肺に一番に影響して、肺が主っている呼吸器や皮膚にいやな症状が出やすくなります。そこで秋には肺を潤す食品が大活躍。 たとえば、梨やオリーブ、百合根など。秋に収穫される食品には、潤いを補うものが少なくありません。

冬は寒い季節です。ある種の動植物は休眠してしまいます。寒さは代謝や血行を低下させてしまいます。身体は冷えて筋肉もちぢこまり、動作も緩慢になりがちです。従って、冬に身体を冷やす冷たいものやなまものは要注意です。外の寒さだけでなく、身体の内側からも冷やして、代謝や血行が更に悪くなってしまいます。

ところで、季節は必ずしも安定した気候を呈するとは限りません。たとえば、冷夏や暖冬など季節にそぐわない気温になったり、春に季節はずれの雪が降ったり、梅雨なのに雨が降らなかったり、あるいは夏に本来の気温より更に暑くなったり、冬に異常に寒くなったり。

このような異常気象も身体に影響を与えますから、気候の変化に応じて食べ物や生薬を変えてゆく必要があります。

 

因地

因地とは、地理による違いを指します。

これは、土地の高低、山岳地帯・沿海州・森林地帯・工業地区など地域の特徴、仕事場に常にクーラーがある・仕事で火を使うなど生活の場所の特徴などを含みます。

たとえば、中国の沿海地方は、温暖で海からの湿気が常にあります。このような地域は湿気の影響を受けやすいので、水分代謝を促進するさっぱりとした薄味のものが好まれます。逆に、中国北西の高原地方は、とても寒く乾燥した地域なので、寒さと乾燥の影響を受けやすく、熱エネルギーや潤いを補って寒さを取り除く温熱性で辛いものや濃い味のものが好まれます。

 

因人

因人とは、個人の性別、年令、体質、生理的状態、病理的状況などを指します。

たとえば、女性は月経、妊娠、授乳など特殊な時期があり、血液を消耗しやすいので、血液や潤いを補うものを多く摂る必要があります。 中華圏では、授乳期の女性には血液を補うはたらきの強い豚足をよく食べさせたりします。

乳幼児はまだ内臓など身体の器官の発育が充分ではありません。ですから、性質が比較的穏やかで消化の良いものを食べさせるようにします。 早くから離乳食を始めたり、小さい子供に大人が好む食物をよく与えていると、中国医学的には心身のバランスを崩す原因になることもあります。

風邪をひきやすかったり、抵抗力・免疫力の低下している人は、補う作用のあるものを摂って、自分の身体の充実を謀ります。 もちきびやもちあわなどの雑穀は、体表の気を補うとされるので、白米に混ぜて炊くと良いでしょう。

 

食物禁忌

食物禁忌とは、個人の体質や状態によって健康を損ねる原因になったり、疾病を悪化させるため、摂取を禁止したり、制限するもののことです。

現代医学でも、高血圧にはNa(ナトリウム)の過剰摂取を禁じたり、じゃがいもの芽や緑色に変色した部分にはソラニンが含まれ、腹痛などの原因になるため食べてはいけないなどの良く持つ禁忌がありますが、中国医学では、三因を基に個人に合った食品を選ぶため、広い意味では、全て人、全ての食品に食物禁忌は存在するといえます。

また、日本で伝統的にいわれる「すいかとてんぷら」など食べ合わせの禁忌もあります

食物禁忌
病中禁忌
(びょうちゅうきんき)
ある疾病や症状の時に摂取してはいけないもの ×ストレス…酸味→肝のコントロール低下
×できもの・皮膚病…辛味・温性→発散・熱を生み症状悪化
×冷えによる腹痛・下痢…生もの・冷たいもの・寒凉性→熱エネルギーを消耗し症状悪化
配伍禁忌
(はいごきんき)
よくない食べ合わせ ×柿とかに…体を冷やし熱エネルギーを消耗
×薬用人参(お種人参・党参・西洋人参・毛人参な ど)×だいこん・かぶ…人参の作用減弱
胎産禁忌
(たいさんきんき)
妊産婦が摂取してはいけないもの ×妊婦:陰血不足・相対的に体が熱くなる…辛辣・温燥のもの不適
×妊婦悪阻:湿濁内停…油膩・腥臭不適
×産婦:気血損傷・虚寒・C血内停…生冷・寒涼・酸収・辛辣不適
時令禁忌
(じれいきんき)
季節や自然環境の変化に合わないもの ×春夏:陽気旺盛…温燥発物・犬肉・羊肉少食
×秋:乾燥…辛熱少食・くだもの・水分多食

×冬:寒冷 … 生冷・寒涼不適・温熱多食 
質変腐乱禁忌
(しつへんふらんきんき)
不衛生なもの・腐ったもの・黴びたもの・毒性のあるもの 新鮮なものを摂取
×じゃがいもの芽…ソラニン→腹痛
×黴びたピーナッツ…アフラトキシン→発ガン性
×微生物や寄生虫の繁殖した魚介…アニサキス→胃腸炎
偏食当忌
(へんしょくとうき)
偏った食事 ×五味偏食
×肥疳厚膩…痰濁内盛
×豚肉…肥満・多痰
×炙った肉…できもの・炎症

 

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