切診
切診には、脉診按診の2つがあり、どちらも弁証に重要な診断方法です。脉診は脈拍の状態を診る方法です。按診とはいわゆる触診のことで、皮膚、手足、胸腹部など体の各部位を触れたり、なぞったり、圧迫したりして、その状態を診る方法です。古代において切診は脉診のみを指しましたが、診断方法の発展とともに現在のように脉診と按診を指すようになりました。

 

脉診
脉診は、古くは遍診法、三部診法、寸口診法の三種がありましたが、現在では主に寸口診法を用います。脉診は、脉の深さ、脈拍数、脉の形、脉の勢いなどから、二十八種に分類され、これより身体内部の病変を察知することができます。脉診はそれを行う者の経験と手指の感覚が全てで、理論だけでなく、いかに多くの脉診を実践するかが重要となります。脉診はある程度の理論と技巧があって、はじめて診断のひとつとして用いることができるといっても過言ではないでしょう。

 

脉象形成の原理

心主血脈であり、心臓は拍動することによって血液を血管内に送り出したり、血管内から取り込んだりして、脈拍を形成しています。心臓の拍動と血管中の血液の運行は宗気推動と関係があります。は脈中を循行し、休むことなく、全身をくまなく流れています。

また血流は心臓の作用だけによるものでなく、他の臓腑の協力も必須となります。肺朝百脈といわれ、全身の血液は肺に集まりますし、肺主気により全身に血液を行き渡らせます。は気血生化の源であり、脾主統血によって血液の脈中の循行を助けます。肝は肝蔵血肝主疏泄によって血液の循環量を調節しています。腎は生命エネルギーの根源であるを蔵し、精より人体の根本的な陽気を生み出して、各臓腑組織の活動の原動力となります。そして腎精からは肝血が作られます。

このことから解るように、臓腑と気血の密接な関係により脉象が形成されるのです。

 

脉診の臨床意義

脉象の形成には臓腑気血との密接な関係がある以上、臓腑気血に病理的な変化が起これば、血脈の運行に影響が現れ、脉象に変化が現れることは想像に難くありません。従って、脉象を診ることは、疾病の病位などの判断と予後の推察に繋がるのです。

疾病の表現はとても複雑です。しかし、脉象を診ることで、疾病の部位の深いのか浅いのか、疾病の性質が寒なのか熱なのか、あるいは邪正盛衰を推し量り、虚証なのか実証なのか、そして疾病の進行状態はどうなのかなどを知ることができます。例えば、病が表にあれば浮脉となりますが、裏にあれば沈脉となります。寒証であれば遅脈になりますが、熱証であれば数脈になります。実証であれば有力ですが、虚証であれば無力となります。

脉診は疾病の予後に対しても有意義なものです。慢性疾患など長く患っている場合、脉は緩和で、これは胃気が次第に回復し、病が癒える傾向にあることを示します。慢性疾患で気虚であったり、過労、失血、長期に渡る下痢など、一見虚証のような状態にも関わらず、実証で現れる脉象が見られる場合、多くは邪盛正衰に属す危険な状態です。外感熱病で熱が退いていく過程で、脉象が緩和なのは、病が癒えようとする兆候です。反対に、脉が急に早くなって、熱くて落ち着かないようであれば、病が進行しているといえます。また戦汗があって、汗をかいた後脉が静まり、熱が退いて体が冷えてくるのは、病が癒えることを示します。反対に汗をかいた後、脉が早くなって熱くて落ち着かないのは、危篤の状態です。

このように脉象と病の関係は複雑極まりなく、一般的な状況下では脉と病は一致しますが、一致しない特殊な状況も多々あり、臨床上四診合参することが、的確な診断をするためには必要不可欠といえます。

 

脉診の分類

脉診は脉を取る部位によって以下の3つに分類されます。しかし、現在臨床的には普通寸口脉を取ります。

 

遍診法

遍診法(へんしんほう)は別名を三部九候法(さんぶきゅうこうほう)といい、頭、手、足3つの部位の天地人3箇所の脉、都合9箇所の脉を取る方法です。

●上部(頭部) 上部上 両こめかみの動脈:太陽穴…頭角の気
  上部中 両耳の前部の動脈:耳門穴…耳目の気
  上部下 両頬の動脈:巨髎穴…口歯の気
頭部の3箇所
     
●中部(手部) 中部上 両手太陰:寸口脉…肺
  中部中 両手少陰:神門穴…心
  中部下 両手陽明:合谷穴…胸中の気
手部は寸口脈を一脉として3箇所
     
●下部(足部) 下部上 両足厥陰:五里穴または太衝穴…肝
  下部中 両足太陰:箕門穴または衝陽穴…胃
  下部下 両足少陰:太渓穴…腎
足部の3箇所

 

三部診法

三部診法(さんぶしんほう)とは、人迎、寸口、趺陽の三脉を取る方法で、寸口で十二経を、人迎と趺陽で胃気の状態を探ります。更に足少陰経の太渓穴でも脉が取れるようなら、ここで腎の状態を探ります。

 

寸口診法

寸口診法(すんこうしんほう)とは、橈骨茎状突起の内側にある動脈、すなわち手首の掌側の親指側にある動脈の脉を取る方法で、現在最も一般的に用いられる脉診の方法です。

寸口診法は手首の脉だけで全身の状態を探ることができます。脉を取る動脈部分はの経絡が通る場所ですが、肺は「百脈に朝ずる」といわれ、全ての臓腑と関連があります。また肺の経絡はを通って全身に巡りますが、胃は飲食物が最初に入る臓腑で、五臓六腑は胃から得た気によって養われています。このことから、臓腑のあらゆる変化は全てこの脉上に反映されます。

寸口(すんこう)は別名を気口(きこう)あるいは脉口(みゃくこう)といい、寸関尺(すんかんしゃく)の三部に分けて取ります。橈骨茎状突起の部分が関脉、親指側が寸脉、肘側が尺脉となります。この寸関尺3脉の浮、中、沈つまり軽く触った時触れる部位、中くらい、比較的強く押し当てた時の3つの脉を取るため、三部九候となりますが、遍診法とは異なります。時代や学説によって、同じ位置を取っても観察できる臓腑が異なりましたが、現在では一般に以下のように定義づけられています。繰り返しますが、脉を取っている動脈は肺経が通っており、各臓腑の経絡が直接現れている訳ではありません。

左寸:心(膻中) 右寸:肺(胸中)
左関:肝胆(膈) 右関:脾(胃)
左尺:腎(小腹) 右尺:命門(小腹)

また、病状が危篤な場合や慢性疾患、虚証、老人、産後などでは、寸関尺を分けずに浮中沈のみを取り、左を心肝腎、右を肺脾命門として診る方法もあります。

 

脉診の方法と注意事項

脉診を行うに当たり、時間帯体位指使い加減平息五十動の6つが重要となります。

1.時間帯

脉を診る時間帯は、夜明けが最も良いとされます。夜明けは陰気が未だ動いておらず、陽気も未だ散っていない安定した時間であるとともに、飲食や活動などによる影響もなく、絡脈が均一で、気血も乱れておらず、外的環境も体内も最も安定した時間帯だからです。

これ以外の時間帯は脉診には向きませんが、病人を診る場合はこの限りではありません。できるだけ外部も体の状態も安定した環境になるよう心掛け、病人が緊張するなど精神的な影響も出ないように配慮して行うとよいでしょう。

 
2.体位

脉診を受ける病人の体位が正しくなければ、局所の血管が圧迫されるなどして気血の運行に影響が出るので注意が必要です。

病人を座らせるか仰向けに寝かせます。掌を上に向けて手は自然に開かせ、心臓の高さになるように置き、力を入れないで真っ直ぐに腕が伸ばさせます。この時、手首に脉枕などを当てると便利です。病人も楽な態勢で脉診を受けられ、脉診を行う側も脉が取りやすく、お互いに便利です。

 
3.指使い
脉診を行うには病人と向かい合って座り、左手で病人の右手の脉を、右手で病人の左手の脉を取るようにします。まず橈骨茎状突起内側に中指を置きます。ここが関脉の位置となります。中指をそのまま、中指にくっつけて人差し指を親指側に置きます。ここが寸脉です。同じく、中指にくっつけて薬指を肘側に置きます。ここが尺脉です。手首に宛った3本の指を弓形に曲げ、指先を平にしてそろえて、指の腹で脉を取ります。この時、指先の感覚を鋭くしておくことが重要です。3本の指の間隔は、病人の身長によって変わります。身長が高い人の場合は広めに、低い人の場合は狭くしなければなりません。

脉を取る準備ができたら、最初は3本とも同時に同じ力で力を掛けます。これを総按(そうあん)といいます。次にどれか一つの脉のみ、例えば寸脈のみ、あるいは関脉のみ、尺脈のみなど、徐々に力を掛けて観察します。これを単按(たんあん)といいます。脉診をする場合、総按と単按は常にセットで用います。

尚、小児の場合は、大人に比べて寸口部位が短いので、寸関尺の三部に分ける必要はなく、親指1本で脉を取れば大丈夫です。また脉診の際に、泣いたり、騒いだりすると正しい脉が取れないので注意します。

 
4.圧力の加減
脉診の際、力加減や指の位置を動かすなどして、脉の在処を探す方法のひとつに挙按尋(きょあんじん)があります。軽く押さえた場合をまたはといい、比較的強く押さえた場合をまたは、その中間またはといいます。挙とは皮膚上の脉を、按とは筋骨間の脉を、尋とは挙と按の間の脉をみるもので、この3つの脉の変化をみることが重要となります。もし、どれか1つが他と異なるようなら、指を内側や外側に細かく移動させて詳細を探ることが必要です。
 
5.平息
一回吸って一回吐く呼吸を一息(いっそく)といいます。脉診をする際、脉診を行う人はリズムの調った自然な呼吸をしていることが重要です。これは一息の時間で病人の脈拍を計り、脉の速度を観察するためです。また謙虚な姿勢で、冷静に、全神経を脉に集中して行うことが必要となります。
 
6.五十動
脉診の際には、毎回50回の拍動を数える必要があります。これを五十動(ごじゅうどう)といいます。もし、脈拍が50以下で途中脉が飛ぶような場合は、結脉、代脉、促脉などが考えられますが、一度だけでなく、二度三度と脉を取ってみて総合して判断する必要があります。それには脉診に3~5分が必要となります。また時間を掛けて脉を取ることで、脉診をする側が重点を押さえてきちんと脉診ができているか注意を喚起する意味もあります。

 

平脉
平脉(へいみゃく)とは、人の正常な脉象をいいます。平脉は、三部に脈拍を感じ、一息4~5回、つまり一分間に72~80回拍動を感じます。浮でも沈でもなく、大きくも小さくもなく、ゆったりと落ち着いて穏やか、柔和で力があり、リズムが一定で、尺脉を沈取すると一定の力があります。

平脈には、胃、神、根の3つの特徴があります。

●胃
は水穀精微の海であり、後天の本であり、人体を構成する営衛気血の源です。「胃気があれば則ち生き、胃気がなければ則ち死ぬ」といわれるように、人の生死は胃気の有無により決定するといっても過言ではありません。このことから、脉も同様に胃気によって正常な拍動を起こすと考えられています。また中取で胃気を診るといわれ、平脈であれば胃気があると判断できます。もし病気で、浮沈遅数などの脉があったとしても、ゆったりしていれば胃気はまだあり、問題はありません。胃気の盛衰を観察することは、疾病の進退吉凶をある程度占うことができます。
 
●神
は血脈を主り、を蔵します。脉はの府であり、気血が充実していれば、心神も健康で旺盛となり、脉も有神となります。有神の脉とは柔和で有力で、脉が有神であることは大事なことです。もし、脉が微弱であっても、微弱な中にも完全に無力であれば有神であり、また弦実であっても柔和であれば有神です。つまり、脉から胃気があることが感じられ、脉が有神であれば、充実したいい脉であり、これらは胃気があることと有神であることは一致します。
 
●根
先天の本であり、人体の臓腑組織の機能や活動の原動力となります。腎気が充実していれば、それが脉に反映されて必ず有根となります。沈取および尺脉で腎を診るといわれ、尺脉を沈取した時に有力であることが有根とされます。病中であっても尺脉を沈取できれば腎気があると判断でき、先天の本がまだ絶えておらず、生きる可能性があるといえます。

平脉は体内および外界からの影響を受けやすく、また生理的変化によっても変化します。

●気候変化
四季によって脉象は変わります。春は陽気が既に上昇してはいるものの、冬の寒さがまだ残っている時期であるので、気機が制約を受けやすく弦となります。夏は陽気が盛んな時期であるため、波が打ち寄せては返すように、拍動が頂点に達するまでは力強く感じますが、それを過ぎるとすーっと引く洪となります。秋は陽気が収束しようとする時期であるので、夏に比べて既に力強さは減弱し、毛のように軽くなり、浮となります。冬は陽気が深く潜む時期なので、沈となります。
 
●地理
土地の高低、気候、気温、湿度など、場所によって脉象は変化します。例えば中国の場合、南方は比較的低地であり、温暖で湿度が高いので、体表が開きがちになり、細軟あるいはやや数が多く見られます。北方は比較的高地で、寒くて空気が乾燥しているので、体表が機密になりやすく、沈実が多く見られます。
 
●性別
脉象は性別によって差異があります。女性は男性に比べて濡弱でやや早く、妊娠すると滑数で中和が常に現れます。
 
●年齢
年齢により脉象は変化します。年が若いほど脈拍は早くなり、年を取るほどゆっくりと穏やかになります。嬰児では毎分120~140、5~6歳の幼児では毎分90~110が正常です。また青年で元気であれば脉は有力で、老人で気血虚弱で精力が徐々に衰えている場合は弱くなります。
 
●体格
体格により脉は異なります。大柄な人は脉の現れる部分が比較的長く、小柄な人は短くなる傾向にあります。痩せている人は、肌肉も薄いので脉が常に浮になりやすく、反対に太っている人は、皮下脂肪が厚いため常に沈になりがちです。また病気ではなくても、もともと沈細や、洪大などの脉象が見られる場合もあり、これをそれぞれ六陰脉(ろくいんみゃく)六陽脉(ろくようみゃく)といいます。
 
●情志
一過性の精神的な刺激は脉象に変化を及ぼします。例えば、喜びすぎると心を傷るため、脉が緩になります。怒り過ぎると肝を傷るため、脉が早くなります。驚き過ぎると脉が乱れます。これら一過性のものは、気持ちが落ち着くと脉も安定します。
 
●労逸
運動や休息などで脉象は変わります。激しい運動や動いた後は脉が早くなり、睡眠中はゆっくりになります。頭脳労働者は肉体労働者に比べて、脉が弱い傾向にあります。
 
●飲食
飲食の前後で脉象は変化します。食後や飲酒後は数で有力になりやすく、空腹時はやや緩で無力となります。

この他、健常人の中でも寸口部位では脉が取れず、特殊な部位に脉を感じる場合があります。一つは斜飛脉(しゃひみゃく)といい、尺脉の位置から橈骨茎状突起の背外側を通って、親指背部にある合谷穴まで伸びているものをいいます。もう一つは反関脉(はんかんみゃく)といい、通常の寸口脉の背面で触れるものをいいます。これらは、解剖学的に橈骨動脈が特異的な位置にあるために起こる現象で、病気によるものではありません。

 

病脉
病脉(びょうみゃく)とは、疾病を反映した脉象の変化をいいます。例えば、季節による脈象の変化など正常な生理的変化や、月経などによる脉象の変化など個体の特異的変化以外は、全て病脉に含まれます。

脉診の発展において、医家ごとに脉診の経験が異なるため、脉象の命名が一致せず、専門書には様々な脉象の分類が記載されました。例えば、『脉経』では24種、『景岳全書』では16種、『瀕湖脈学』では27種、『李家正眼』では24種といった具合です。

近代では28種に分類する方法が主流となっています。脉象を浮沈など脉の深さ、遅数など脉の早さ、血流の大小や拍動の強弱など、位、数、形、勢の四方から観察した分類と、これらの組み合わせによる分類を併せて28種に分類しています。

二十八脉を表にまとめました。(前半掲載。次回更新時、後半を追加致します)

脉象 主病 解説
軽く取ると感じるが、強く取ると弱くなるか感じられなくなる 表証
虚証
主に表証に現れる脉象で、病邪が経絡肌表など浅い部位にあることを表す。衛陽が外邪に抵抗するため、脈拍を外側で感じて浮となる。但し、慢性疾患で体が虚している場合にも浮脈が見られることがあるが、この場合は浮大無力なので間違えないよう注意する
軽く取ると感じられないが、強く取ると感じられる 裏証
有力なら裏実証
無力なら裏虚証
邪が裏に鬱して、気血が滞ると、沈で有力となる。臓腑虚弱、正気不足、陽虚気陥で昇清ができないと、沈で無力となる
脈拍が遅く緩慢で、一息に4回以下の状態。概ね一分間に60以下 寒証
有力なら寒積証
無力なら虚寒証
寒凝気滞や陽虚で運化が失常したために脈拍が遅くなる。但し、邪熱結聚で血脈の流れが阻滞しても遅脈になることがあるが、この場合は有力。遅脈で有力は実寒証でも見られるので、四診合参が重要となる。長期間、身体を鍛えている場合、遅脈で有力になることがあるが、これは病脉ではない。
一息に5回以上の状態。概ね一分間に90以上 熱証
有力なら実熱証
無力なら虚熱証
邪熱亢盛で気血の運行が加速し、脈拍が早くなるので、この場合は数脉で必ず有力。慢性疾患で陰虚の場合や陰虚内熱の場合は、数脈で無力となる。陽虚外浮で数脈の場合は、数大で、無力となるため、強く取ると空虚になるので、四診合参が重要となる
洪(大) 脉が最も大きく、波が押し寄せるように、脉の立ち上がりは大きいがすっと退いてゆく。洪脈で無力のものを大脉という 気分熱盛 内熱が籠もって血管が拡張するため、気血が溢れるために見られる。慢性疾患で気虚の場合や、虚労、失血、慢性的な下痢で洪脈の場合は、邪盛正衰で危険な状態である
脉が最も細く、軟らかいもので、強く取るとあるようなないような感じで絶えようとする 陽衰少気
陰陽気血諸虚
陽衰気微で脈拍が無力になる。軽く取ると無力な場合は陽気衰、強く取ると無力な場合は陰気竭。慢性疾患で微脉の場合は、正に正気が絶えようとしているところで、急性疾患で微脈の場合は陽気暴脱が起こっている。但し、邪気がそれほど深く重くない場合は回復する可能性がある
細(小) 線のように細い脉だが、脉が明らかなもの。小脉は別名 気血両虚
諸虚労損
湿病
気血両虚によるもので、営血虧虚により血管が満たされず、気虚のため血を推動できず運行が無力となり、細く小さく無力で軟弱な脉となる。湿邪が脉を塞ぐことでも見られる。温熱病で神昏譫語があって脉が細数の場合は、熱邪が営血に深く入っているか、心包に達していると見られる
浮散無根で、脈拍が揃ってない 元気離散 正気が消耗されて散じ、臓腑の気が正に絶えようとする危険な状態
三部脉が全て無力で、押さえると空虚 虚証 気が不足すると血を運行できなくなるので無力となり、血が不足すると脉が充たされないので空虚になる。気血両虚や臓腑諸虚で見られる
三部脉全てが有力 実証 邪気亢盛でありながら正気も虚してない状態で、正邪相博、気血陽盛、脉道堅満なため有力になる
算盤の珠を撫でるように流れるもの 痰飲
食滞
実熱
実邪が内側に壅盛しているため、気が実し血が溢れて、珠を転がすような流れを感じる。健常人の脉が滑で穏やかな場合は営衛が充実していることを表し平脈のひとつ。妊婦が滑数なのは、気血充盛で調和していることを表す
竹をナイフでそいだ時のように、流れが渋ってスムーズでないもの。滑脈と対局にある 傷精
血少
気滞血お
挟痰
挟食
精虧血少で経脈を濡養できないので、血行がスムーズでなくなり、脉気の流れが渋り、渋脉で無力となる。気滞血おや食痰膠固では、気機の流れがスムーズでなくなるため、血行も影響を受けて渋脉で有力となる
尺脉を超えて真っ直ぐに、拍動を長く感じる 肝胆有熱
陽盛内熱
有余之証
長脈で穏やかな場合は中気が充足し、気血の昇降や流れがスムーズ、気血の虧損が皆無であることを示し、健常人の脉象である。肝陽有余で壅盛内熱の場合は長脈で弦硬など、長脈と他の脉が同時に出る場合は病脉であることが多い
脈拍を感じる部分が短い 有力なら気鬱
無力なら気損
気虚により拍動や血行が無力となり、通常の長さで脈拍を感じられない。気鬱血おや痰滞食積などで、脉道が阻害されると脉気不伸となり短脉となるが有力である。短脉の場合、有力か無力かは重要な判断材料となる
弦を弾くように、真っ直ぐにピンと張って長い 肝胆病
諸痛
痰飲
瘧疾
脉道の緊張を表す。肝主疏泄のため調暢気機なら、脉が柔軟でよいが、邪気滞肝で疏泄失常すると、気機不利、諸痛、痰飲、阻滞気機が起こり、脈気が緊張して現れる。虚労内傷、中気不足、肝病乗脾でも現れる。剃刀の刃をなぞるように、弦で細で元気がある場合、胃気が全くない状態で、病気の治癒は難しい。春季では、健常人でも弦で柔和な脈象になるが、これは病脉ではない
葱のように浮大中空 失血 失血
傷陰
浮大無力で、按じると中が空っぽな感じがするのは、上下左右など周辺の脉形はあるものの、内部のみが空のため。突然の失血や血量減少、営血不足により脉を充たせないか、津液大傷で血が充たせない場合、血失陰傷で陽気が附す所を失い、外に散じたための表現
縄をぎゅっと捻ったように、きつく縛ったような脈象

宿食
寒邪が人体を侵襲して陽気が阻害され、寒邪と正気が互いを縛り合った状態で、脈動が緊張して拘急。寒邪が表にあれば浮緊。寒邪が裏にあれば沈緊。激痛や宿食の場合も、寒邪と正気の縛り合いによる
一息に4回以下で、ゆったりとして切迫感がない脈象 湿病
脾胃虚弱
湿性粘滞のため湿によって気機が滞るか、脾胃虚弱で気血が不足し、鼓動を充盈できないために現れる。病人の脉が緩やかになるのは生気回復の兆し。落ち着いてゆったりして、均一で穏やかな場合は平脈
浮で、指を弾くような感じ。太鼓の皮を弾いた時のように中が空虚で、外が堅い感じ 亡血
失精
流産
不正出血
正気不固で精血を蔵することができないので、気が留まる所を失って外部に浮越することによる
沈で、按じると実大弦長となる 陰寒内実
疝気癥瘕
軽く取ると調わないが、按じた時のみ実大弦長を感じ、丈夫な感じで場所が移動しない。病気が頑固で、陰寒内積により陽気が沈潜している。気分や血分に実邪があることの現れ。癥積など有形の腫塊は実邪が血分にある。無形の痞結は実邪が気分にある。失血や陰虚で牢脉の場合は危険な兆候
最も軟らかくて沈細 気血不足 沈取した方が分かりやすいが、細弱無力で、更に強く按じると感じられなくなる。血虚で脉道が充たされず、気虚で脈拍が無力となるため、気血不足の諸証で見られる。病後の正虚で弱の場合は回復の兆候。新病邪実で弱の場合はよくない兆候
浮で細軟 諸虚
主湿
表に近い浅い部分で、細軟無力を感じるため、軽く取るとよく分かるが、按じると不鮮明になる。虚証では精血が虚して脉を栄養できないことによる。湿病では湿が脈動を阻圧することによる
筋骨を強く圧迫することによって初めて感じる。甚だしい場合には脉が取れない 邪閉
昏厥
激しい疼痛
筋骨に触れる沈取の比較的深い位置で感じる。邪閉、厥証、激しい疼痛などで、邪気内伏することにより脉気が通ることができず発現。両手の脉が潜伏し、同時に太渓、趺陽も脉が取れない場合は危険な兆候
豆のようにコロコロしていて、滑数有力。但し、比較的短
陰陽が互いを縛り合って、昇降失和したため、気血が突き動かされることによる。痛みによる陰陽不和で気血阻滞することでも発現。驚くことで気血が乱れ、脉行躁動不安となることによる
数で不規則に脈拍が飛ぶ 陽盛実熱
気血痰飲宿食停滞
腫瘍
陽盛実熱のため陰陽不和となり、急数で休止する。気血、痰食、腫瘍など実熱証では、促で有力。促で細小無力の場合、虚脱によるもので注意が必要
ゆっくりで不規則に脈拍が飛ぶ 陰盛気結
寒痰血瘀
癥瘕積聚
陰盛のため陽が調和できずに発現。寒痰血瘀で気鬱するためスムーズでなくなり、脈気阻滞することによる
代(たい) 一定のリズムで脈拍が止まる 臓気衰微
風証
痛証
七情驚恐
趺打損傷
臓腑衰微、気血虧損、元気不足の場合、脉気が続くことができず、一定のリズムで停止。風証、痛証、七情驚恐、趺打損傷の場合、病のために脉気が続くことができず停止。特異体質や妊婦で見られることがあるが平脈
一息に7~8回の急疾な脉象。概ね一分間に120以上 陽極陰竭
元気将脱
下は真陰が枯渇し、上は孤陽が亢進したため、気短が極まったために発現。傷寒や温病で熱極した場合に発現。疾で按じると堅いのは陽亢无制で真陰垂危。疾で虚弱無力は元陽将脱。結核で見られる場合は危険な兆候。嬰児(生後間もない子供)の脉は一息に7回で平脈

 

病脉の鑑別方法と覚え方
二十八脉に分類された病脉ですが、特徴がよく似ていて鑑別が難しいものもあります。以下にポイントを置くと、鑑別しやすくなります。

脉象 鑑別方法
浮・虚・芤・散 脉が表の浅い部分にある。
浮脉は軽取では有力で、重按するとやや力が減少するものの空虚ではない、また脉形は大きくもなく、小さくもない。
虚脉は大きく無力で、重按すると空虚になる。
芤脉は浮、大、無力で中寒が空虚で、まるでねぎのようである。
散脉は浮、散、無力で、根がなく、やや力を入れると感じることができない。
沈・伏・牢 脉が深い部分にあって、軽取では感じられない。
沈脉は重取で取ることができる。
伏脉は沈よりも比較的深い部分にあって、筋骨を触るくらいまで重按する必要があるが、按じ過ぎると脉をつぶしてしまい感じられなくなるので注意が必要である。
牢脉は沈取で実、大、弦、長で堅くて場所が移動しない。
遅・緩 遅脉は一息4回以下。
緩脉は一息4回で遅脉よりやや早く、穏やかな脉象をしている。
数・滑・疾 滑脈は脉形が算盤の珠を転がすようで流れがスムーズであって、脈拍が速い訳ではない。
数脉と疾脉は脈拍が早い。
数脉は一息5回以上。
疾脉は一息7~8回。
実・洪 脉に勢いがあって充実、有力である。
洪脉は滔々たる波濤のように、脉が寄せる時には盛大で、すっと引いて行き、軽取で明らかである。
実脉は長大で堅実で有力なところは洪脉と同じだが、引く時も盛大である。
細・微・弱・濡 脉形が細くて小さく、軟弱で無力である。
細脉は脉形は小さいものの明らかに感じることができる。
微脉は最も細く、最も軟らかくて、按じると絶えそうになり、はっきり感じられない。
弱脉は沈、細、無力。
濡脉は浮、細、無力。脉位が弱脉とは反対で、軽取すれば感じられるが、重按するとはっきりしない。
芤・革 中間が空虚である。
芤脉は浮、大、無力で中間が空虚でねぎのようであるが、脉管は軟らかい。
革脉は浮、大で指を弾くよう、弦、急で、中間が空虚だが、脉管が比較的硬い。
弦・長・緊 長脉は本来脉を感じる部分より長く拍動があって、脈拍は早くない。
弦脈は長いものの、脉気が緊張し、弦を弾くような感触。
緊脉は弦脉と似ているが、弾くような勢いはなく、縄を捻ったような緊張感で、脉形は弦よりも大きい。
短・動 本来脉を感じる部分より短い。
短脉は脉形が短く、三部で脈拍を感じられず、渋、遅。
動脉は脉形が豆のようで、滑、有力。
結・代・促 脈拍が停止。
結脉と促脉は不規則に脉が停止し、停止時間は短い。
結脉は遅で脈拍が飛ぶ。
促脈は数で脈拍が飛ぶ。
代脉は一定のリズムで脉が停止し、停止時間は比較的長い。

また相反する特徴の脉を対にすることで覚えやすくなります。

脈象 特徴
浮脉は脉位が浅く、沈脉は深い。
浮脉は軽取で明らかで、沈脉は軽取では不明瞭である。
陰陽表裏の鑑別ができる。
遅脉は拍動が比較的ゆっくりで一息4回以下、数脉は拍動が比較的早くて一息5回以上。
寒熱の鑑別ができる。
虚脈は三部の拍動に力がなく、実脉は力がある。
虚実の鑑別ができる。
滑脉は算盤の珠を転がすように流れがスムーズで、渋脉は竹を縦に削ぐように引っかかってスムーズでない。
痰湿とお血の鑑別ができる。
洪脉は脉体が広く大きく、充実して有力、脉の立ち上がりには勢いがあるもののすっと退く。
細脉は脉体が線のように細くて小さく、軟弱で無力だがはっきりと感じられる。
虚実の鑑別ができる。
長脉は本来脈拍を感じる部分を超えて拍動が感じられ、短脉は拍動を感じる部分が短くて三部では感じられない。
緊脉は縄を捻ったように緊張して有力、緩脉は勢いが緩やかで一息4回。

 

怪脉
怪脉(かいみゃく)とは胃、神、根がない脉のことで、他に真臓脉(しんぞうみゃく)敗脉(はいみゃく)死脈(しみゃく)絶脉(ぜつみゃく)ともいわれます。怪脉の多くは、疾病の後期、臓腑の気の衰遏、胃気敗絶などの病証で見られます。元代には「十怪脉」といわれ10種の脉象が挙げられていましたが、後世の医家によって「七絶脉」あるいは「七死脉」と呼ばれる、臨床上遭遇しうる7種にしぼられました。

怪 脉については、最近になって過去の文献が認められたため、薬物で救うことは不可能で、死を疑うことはないとされていました。しかし、医学の発展およびその臨床、研究などにより、その大部分が心拍の乱れによるものであり、心臓疾患により形成されたものだということが解ってきました。しかしながら、一部の機能的に発現する怪脉を除いて、怪脉が見られる場合、疾病が予断を許さない段階まで発展していることを示していることには変わりありません。但し、怪脉が現れたからといって、必ず死に至る訳ではなく、努力次第では治療できるということを忘れてはいけません。

脉象 特徴
釜沸脉 脉が皮膚にあり、浮数が極まってはいるものの脈拍を数えられるほどクリアではなく、まるで釜の中で水が沸いているかのように、浮いて無根の状態。三陽の熱が極まって、陰液が枯渇していることの表現。脉が絶えようとしており、多くは瀕死の脉象である。
魚翔脉 脉が皮膚にあり、頭は固定されているものの尾は揺れ動き、あるようでないような感じで、まるで魚が水中を泳ぎ回っているような状態。三陰の寒が極まって、陽気が外に漏れ出ようとしている。
蝦遊脉 脉が皮膚にあり、蝦が水中を泳ぐように時折跳ねて去ってゆき、しばらくするとまた戻って来て、突然先のように跳ねる。孤立した陽気が拠り所を失い、躁動不安な表現で、主に大腸の気が絶えようとしている。
屋漏脉 脉が筋肉の間にあり、まるで雨漏りして長い間かけて一滴が滴り落ちるように、脈拍が極めて遅く緩。胃気、営衛が将に絶えようという表現。
雀啄脉 脉が筋肉の間にあり、続けざまに脈拍数が急になり、まるで雀が餌を啄むように3~5拍不調になって止まり、また拍動が始まる脾の穀気が既に絶えていることの表現。
解索脉 脉が筋肉の間にあり、まるで縄がほどけて乱れたように、粗くなったかと思うと密になる状態。早くなったり、遅くなったりする脉の一種で、散乱して無秩序な脉象。腎と命門の気がどちらも失われた表現。
弾石脉 脉が筋肉の下にあり、トントンと指で石を弾くようで、柔らかさの欠片もない。腎気遏絶の表現。

 

婦人脉
女性には、月経、妊娠、出産など女性特有の生理的な変化と疾病があり、特異的な脉象が現れることがあります。生理的なものなのか、疾病によるものか鑑別することが重要になります。

状態 脉象と鑑別
月経 左の関尺脉が右にくらべて急に洪大になった場合、口苦、身熱、腹脹がなければ、将に月経が始まるところである。
寸関脉は調和しているのに、尺脉が取れない場合、多くは月経不順。
無月経の場合は虚実の分類があるが、多くは細渋または渋弦。尺脉が虚細渋の場合は血少による無月経、尺脉が弦渋の場合は実証。
妊娠 結婚後、月経が止まり、脉が滑数衝和で、飲食が普段と異なり、呑酸や嘔吐などがある場合、確かに妊娠の証候。
午睡の直後に必ず滑疾有力が現れる場合は、妊娠とは判断できない。
妊娠の場合は必ず滑脉となるが、妊娠でなく積聚の場合は弦緊沈結または沈伏がよく見られる。
妊娠でも労損でも数脉が見られるが、労損の場合は同時に渋脉も見られ、妊娠の場合は必ず滑脈が見られる。
胎児 妊娠すると陽気が必ず丹田で動き、胎児を温養できるようになるため、脉は沈洪となる。
脉が沈で渋となれば精血不足の証候で、胎児に影響が現れる。
沈脉では陽気衰絶の証候で、胎児が死んでいるか、或いは妊娠でなく痞塊があると考えられる。
出産直前 両手の中指の左右の側面に、飛び跳ねるような脉が感じられる場合、まだ出産の時期ではない。
反対に脉が感じられなくなり、陣痛が起きるごとに痛みが増し、目花が現れるようなら、出産の直前といえる。

小児脉
小児の脉は成人とは異なるので注意が必要です。寸口部が狭く、寸関尺を分けて診ることが困難です。また小児は診察時に、怖がって泣いたり、暴れたりしやすく、気が乱れて脉も乱れ、脉診自体が難しいのが現状です。そこで、脉診よりも体形や面色、肌の色、目・耳・鼻・口などの竅や声を観察することが重要となります。

小児の脉診では一指三部診法(いっしさんぶしんほう)を用います。左手で脉診する小児の手を持ち、右手の親指で観察します。3歳以下の場合、橈骨茎状突起の内側に親指を宛って脉を取ります。4~8歳の場合、橈骨茎状突起を中心として、その前後を合わせた三部に親指を動かして脉を取ります。9歳~14歳の場合、中指と人差し指あるいは薬指など、2本の指を使って脉を取ります。15歳以上の場合は成人と同様の脉診を行います。

3歳以下の小児の場合、人差し指の絡脈を取る方法や、頭・額・胸・腹などを按じる方法もあります。

小児の平脈は、3歳以下では一息7~8回、5~6歳では一息6回です。そのため、5~6歳で7回以上あれば数脉、4~5回では遅脉となります。

小児の場合、浮沈、遅数、強弱、緩急をもって陰陽寒熱表裏と邪盛正衰を鑑別し、二十八脈には拘りません。 浮数なら陽、沈遅なら陰、強弱で虚実、緩急で邪正を測ることができます。数は熱、遅は寒です。沈滑なら痰濁や食滞、浮滑なら風痰です。緊は寒、緩は湿、大小が調ってないのは停滞です。また小児は腎気未充のため、中取までしか感じることができません。それはもともと浮であっても沈であっても同じです。もし、重按して脉が取れるのであれば、成人の牢実脉と同様です。

複合した脉象と主病
疾病は非常に複雑で、一種の脉象のみ現れることはほとんどありません。例えば、二十八脉でも、弱脉は虚脉・沈脉・小脉の3種が、牢脉は沈脉・実脉・大脉・弦脉・長脉の5種が複合したもので、いくつかの脉が複合して現れるのが普通です。

浮数脉や沈遅脉など2種の脉が複合したものを二合脉(にごうみゃく)、浮数虚脉のように3種の脉が複合したものを三合脉(さんごうみゃく)、浮数滑実脉のように4種が複合したものを四合脉(しごうみゃく)といいます。脉象はもともと主病に対応したものですから、複合した脉象の場合、複数の疾病の総合的な脉象といえます。例えば二合脉の場合、浮数脉は表熱証を表しますが、浮脉は表証、数脉は熱証をそれぞれ表しています。また浮遅脉は表寒証を表しますが、浮脉は表証、遅脉は寒証をそれぞれ表しています。三合脉では、浮数脉で無力では表虚熱証を、沈遅脉で有力の場合は裏実寒証を表しています。

脉象 病証
浮緊脉 外感寒邪による表寒証・風痺疼痛
浮緩脉 風邪傷衛・営衛不和・太陽中風の表虚証
浮数脉 風熱襲表の表熱証
浮滑脉 実証夾痰・風痰・素体痰盛で感受外感
沈遅脉 裏寒証・脾胃陽虚・陰寒凝滞
弦数脉 肝鬱化火・肝胆湿熱
滑数脉 痰熱・痰火・内熱食積
洪数脉 気分熱盛・外感熱病
沈弦脉 肝鬱気滞・水飲内停
沈渋脉 血お・陽虚で寒凝血お
弦細脉 肝腎陰虚・血虚肝鬱・肝鬱脾虚
沈緩脉 脾虚・水湿停留
沈細脉 陰虚・血虚
弦滑脉 肝火夾痰・風陽上擾・痰火内蘊

脉象と症状の特殊な関係
一般に脉象と症状は一致しますが、全てにおいてそうとは限りません。場合によっては、脉象と症状が真逆になることもあります。脉象と症状が一致する場合を、一致しない場合をといいます。

実証の症状が見られる場合を例に考えてみましょう。もし、脉が洪、数、実であれば邪実正盛で、正気が充実していて邪気と闘争してる順証と考えることができます。しかし、症状が実証であるにも関わらず、脉が細、微、弱であれば邪盛正虚で、邪が裏に入りやすい状態の逆証と考えることができます。また急性疾患で、脉が浮、洪、数、実であれば、正気が邪気と闘争していることを表す順証、同様に慢性疾患で、脉が沈、微、細、弱であれば、邪気が衰退して正気が回復しようとしていることを表す順証といえます。反対に、新病であるにも関わらず、脉が沈、細、微、弱の場合は生気が既に虚衰していることを表す逆証で、慢性疾患であるのに、脉が浮、洪、数、実の場合は正気が衰退し、邪気が留まっていることを表す逆証といえます。

脉と症状が一致しない場合、脉に従うのか、症状に従うのか、あるいは脉が真で症状が假なのか、脉が假で症状が真なのか、判断する必要があります。臨床では、真假を明らかにし、脉と症状の取捨選択が重要になります。

脉を捨てて症状を採用する場合の例を挙げてみましょう。症状が真で脉が假の場合は、必ず症状に従って脉を捨てる必要があります。腹部の脹満があって疼痛は拒按、大便燥結、舌紅苔黄厚焦燥で、脉遅細の場合、実熱内結胃腸が真です。裏に熱結して血脉の流れを阻滞するので、脉象が遅細になりますが、これは假なので採用しません。

次に、症状を捨てて脉を採用する例を挙げてみましょう。症状が假で脉が真の場合は、必ず脉に従って症状を捨てる必要があります。傷寒病で裏に熱が閉じ込められている場合、症状は四肢厥冷で脉が滑数の場合、熱を反映している脉が真です。熱邪が内伏するため、外に陰を追いやって四肢厥冷が現れますが、これは假と考えることができるため採用しません。

このように、脉は疾病の臨床表現の一部にしか過ぎず、診断を行うための唯一の根拠になる訳ではありません。従って、正確な診断を行うには、四診合参が重要になるのです。

 

按診の方法と意義
按診は古くから弁証に活用されており、『黄帝内経』『傷寒論』『金匱要略』の中にも、按診についての記載を見ることができます。按診は、手で直接病人や患部を触ったり、圧迫したりするため、局所的な異常や変化を理解しやすいのが特徴で、疾病の部位や性質、病情の軽重など、疾病の状況を推察及び判断することができます。

また按診は切診のひとつで、四診の中でなおざりにはできない診断方法だといえます。なぜなら、四診は望診聞診問診をベースに、更に一歩踏み込んで切診を行うことで得られる情報があるからです。

按診の手法は大まかに、触(しょく)摸(も)按(あん)の3つに分類できます。触は、手指または掌で、額や四肢の皮膚など患者の局所を極軽く接触し、寒熱や潤燥の状態を判断する方法です。摸は、手で腫脹した局所などを撫でさすり、患部の腫れの形態や大きさなど感覚的な状況を判断する方法です。按は、手で胸腹部や腫れのある部位など局所を圧迫し、圧痛の有無、患部の皮膚の状態、腫塊の形態や性質、腫脹の程度、性質などを判断する方法です。

按診を行う場合、按診を行う側は受ける側のことを思いやり、ソフトで尚かつ巧みに行うことが重要です。突然乱暴になったり、冷たい手で触れることは避けましょう。寒い日や手が冷たい場合は、先に手を温めておいてから行うようにします。また按診を行いながら、患部の状態がどう変化するかなど質問をし、按診を受ける側が感じる感覚の変化などもきちんと訊きましょう。按診を行いながら、同時に観察することも怠らず、按診を受けている側のちょっとした表情の変化などから、苦痛を察知する努力も惜しまないようにします。

 

肌膚の按診
皮膚の按診を行う意義は、全身の肌表の寒熱や潤燥、腫脹などの状況を探ることにあります。

一般に、陽気が盛んであれば体は熱いことが多く、陽気が衰えていれば冷えている場合が多く見られます。肌表の按診は、その冷えや温かさから寒熱だけを知るのではなく、熱の大小から表裏虚実を特定することができます。例えば、肌膚を按じた当初はとても熱く感じるのに、長く按じていると徐々に熱が冷めてくる場合、熱は表にあると考えることができます。反対に長く按じた方が、熱を甚だしく感じる場合は、内熱があって外に向かって蒸発している実証といえます。

肌膚に潤いがあって軟らかく、喜按であれば虚証で、患部が硬く、痛みがあって拒按であれば実証といえます。軽く按じても痛い場合は表の浅い部分に病があり、深く按じた方が痛む場合は深い部分に病があると考えられます。

皮膚が乾燥しているのは未だ発汗しておらず、干涸らびているのは津液不足、湿潤しているのは発汗している状態です。

強く按じると腫脹がある場合、水腫か気腫かを弁別する必要があります。按じると陥没してなかなか戻らないのは水腫、陥没してもすぐ戻るのは気腫です。

できもののある部分が、硬く腫れて、熱感のない場合は寒証で、熱感を伴う圧痛のある場合は熱証です。患部とそうでない部分の境界がなく平なものは虚証で、境界がはっきりしていて高く隆起しているものは実証です。患部が硬い場合、多くは化膿していません。周囲が硬くて中心部が軟らかい場合は化膿しています。肌肉内部の化膿を探るには、できものの両脇に手を添え、軽くあるいは強く圧力を掛け、液体の動く感触があるかないかを探ります。液体の感触があれば化膿しており、更に化膿した部分の大きさや、膿の量がどうかを探ります。

古代の書物には尺膚を按診する方法の記載があります。尺膚とは、肘の内側から手の小指側にかけてをいい、外感病の場合、尺膚に熱感があれば、多くは温熱病といえます。

 

手足の按診
手足の按診は主に寒熱を確認するために行います。一般に、手足ともに冷えている場合は陽虚陰盛で寒証に属します。手足ともに熱いのは陽盛または陰虚で熱証に属します。特に注意しなければならないのは内熱熾盛で、裏に陽が鬱滞して表面に到達しないために四肢厥冷となりますが、これは実熱証です。

手足の按診では外感と内傷を区別することもできます。手足の外側が比較的熱い場合は外寒発熱、内側が比較的熱い場合は内傷発熱と判断できます。

また、掌の熱と額の熱を相互に診ることで、表熱と裏熱を区別することができます。掌に比べて額が熱い場合は表熱、反対に掌の方が熱い場合は裏熱といえます。

小児科の範疇では特殊な診断もあります。小児の指先が冷たくなるのは主に驚厥(きょうけつ)とされます。驚厥とは、急激で甚だしい精神刺激により、気血が乱れて昏倒し、人事不省になる状態をいいます。この他、中指だけが熱いのは外感風寒、中指の先だけ冷えるのは天然痘が正に発症しようとする兆候です。

手足の寒熱を確認することは、言い換えれば陽気の存亡を確認することであり、重要なのはどこの陽虚で、予後はどうなのかということです。陽虚証であっても四肢が温かければ、陽気はまだあると考えられ、予後は良好です。しかし、四肢厥冷するようであれば予後はよくない場合が多く見られます。

 

胸腹の按診
胸腹は以下のように分類されます。

胸腹各部位の分類
●虚里: 左乳頭の下で、一般に聴診器で心音を確認する場所
●胸: 横隔膜より上部
●脇: 側脇部腋下から肋骨の11番、12番の間
●心下: みぞおち
●腹: 横隔膜より下部
・胃脘: 上腹部
・大腹: 臍より上部
・少腹: 臍より下部
・小腹: 少腹両側

胸腹部の按診は、局部の病変の状況を理解するために行います。胸前部から脇および腹にかけて触れたり、圧迫したり、必要に応じて叩いたりして確認します。

胸腹部の按診は、虚里、胸脇、腹の三部について行います。

●虚里
虚里(きょり)とは、左乳の下部で心拍を感じる場所で、一般に現代医学的に聴診器を当てる部位のひとつです。虚里の拍動の状態を探ることで宗気の強弱、病の虚実、予後について推測することができます。虚里の按診は臨床上診断で大きな意味を持ちます。暴厥証および大虚または大実の証の場合、脉が伏して触れないことがあります。この時、虚里を詳細に診ることで宗気の存亡を知ることができ、誤診を免れることができます。虚里の按診は古い時代には、今以上に重要視されていました。

正常では、虚里に手を当てると、ゆったりとした緊張のない拍動を感じます。

拍動が弱く顕著でない場合は宗気内虚、反対に衣類の上から拍動を感じるほど大きければ宗気外泄といえます。按じた手が弾かれるほど洪大であれば危篤状態を表しており、特に妊婦や産後、重篤な肺病の場合は注意が必要です。過度の恐怖や驚き、怒り、あるいは過激な運動の後は、虚里の拍動が強くなりますが、安静にすると平常に戻るようであれば問題ありません。

 
●胸脇
胸部にはが、右脇部にはがあり、両脇には肝経が分布しているので、胸脇部の按診により、心、肺と肝の病変を知ることができます。

前胸部が高く盛り上がり、按じると気喘があるのは肺脹証です。胸脇部を按じると胸痛があるのは痰熱気結または水飲内停です。肝臓は右脇内にあって、上部は鎖骨の中心と第五肋骨が交わる部分に、下部は右肋骨弓部の下縁に一致し、肋骨内部になるため、触れることができないのが普通です。腫大した肝臓に触れることができ、それが軟らかいか硬いかする場合は気滞血おと考えられます。肝臓の表面がでこぼこして平でない場合は肝癌を警戒する必要があります。右脇に脹痛があって、触ると熱感があり、拒按の場合は肝癰といえます。マラリアに長く罹患していると脇下に腫塊が診られるようになり、これを瘧母といいます。

 
●腹部
腹部の按診では主に、寒熱、硬さ、脹り具合、腫塊、圧痛などの状況を観察することができ、弁証や診断も役立てることができます。

腹部の寒熱を探ることによって、病の虚実寒熱を弁別できます。腹壁が冷たく、温かい手で触られると気持ちいいようでであれば虚寒証、腹壁が熱く、冷やしたがれば実熱証です。

腹痛で喜按の場合はほとんどが虚証、拒按の場合はほとんどが実証です。局所に灼熱感があって、耐え難い疼痛がある場合は内癰(ないよう)といわれる内臓や胸腹部内のできものです。

腹部脹満で、按じると内部が充実した感じで圧痛があり、叩くと重く濁った音がするのは実満で、反対に腹部膨満であるのに内部が空虚で、圧痛もなく、叩いても音がしないのは気脹で、多くは虚満に属します。

腹部が高度に脹満し、太鼓のようになるものを臌脹(こちょう)といい、重篤な病証のひとつです。但し、重度の肥満症で見られる、腹部が太鼓のような盛り上がりは、按じると軟らかく、臍の突出やその他の重病で見られる症状がなければ臌脹ではありません。臌脹は水臌(すいこ)と気臌(きこ)に分類されます。手を腹の両側に置き、片方の手で軽く叩いた時、もう片方の手に波動が感じられ、同時に、按じると腹部に水を感じ、腹壁が凹む場合を水臌といいます。手で叩いても波動を感じず、案じても凹まない場合を気臌といいます。

痞満(ひまん)とは、自覚症状として心下や胃脘部につまりや閉塞感と脹りを感じるものをいいます。自覚的にしか見られず自覚的にも他覚的にも判るものをいいます。按じると軟らかく、圧痛のない場合は虚証、按じると硬く、抵抗感や圧痛を感じる場合は実証に属します。脘腹を按じると形を感じて脹痛があり、胃にちゃぽちゃぽと音がするものは胃に水飲があるといえます。

胃脘脹悶で、按じると痛む場合は小結胸、胸部や脘腹が硬満で疼痛があり、拒按の場合は大結胸です。

腫塊の按診では、大きさ、形態、硬さ、圧痛の有無などに注意が必要です。積聚(せきじゅ)は、腹の内側の結塊を指し、脹れや痛みなど症状は一定しません。積聚には積と聚には区別があります。固定痛で按じると形があって移動しないものといい、血分の病に属します。痛む場所が一定せず、案じても形がなく、固まったり、散ったり、形態も一定しないものといい、気分の病に属します。左少腹に疼痛があって、按じると硬いものが累々とあるのは宿便です。右少腹に疼痛があって、按じると痛み、塊が手に触れるのは腸癰です。腹中虫塊には三つの特徴があります。一つ目は硬い筋のようなものを感じ、ずっと按じていると動くこと、二つ目は指にミミズのようなうごめきを感じること、三つ目は腹壁が凸凹して平でなく、按じると起伏したりなくなったり、その都度変化することです。