四診概論
四診(ししん)とは、望診(ぼうしん)聞診(ぶんしん)切診(せっしん)問診(もんしん)の4つの診察方法の総称で、疾病の鑑別の基本であり、最も重要なものです。四診に五官を駆使し、人体の全体または局所的な変化を確認します。これらを総合して判断することにより、より客観的に疾病を診ることができます。

 

望診

望診とは、人体の全体あるいは局所的な変化や、精神状態、排泄物、分泌物などを視覚的に観察することです。色、形、状態などあらゆる変化を診るわけですから、健康な場合の状態をしっかり把握しておくことが重要です。

 

神を診る(望神)
には二つの意味があります。狭義では精神活動そのもの、広義ではすべての生理活動を主宰してそれを体外に表現するものという意味があります。望神(ぼうしん)とは、この両者を観察することを指します。

神は生命活動の現れであり、精神は肉体と切り離して考えることはできません。心身が充実していきいきとしている様は神が健やかな状態で有神(ゆうしん)といいます。反対に、生気が無く、ぼんやりしたような状態は神が疲弊している状態で無神(むしん)といいます。

また、神はもともと先天之精である腎精より作られ、後天之本である脾気によって養われていますから、腎精や脾気が充実していれば有神、不足していれば無神の状態になりやすいと考えられます。気・精・神は 生きてゆくための重要な三要素で、これらが充実していることが健康であり、不足すると心身が衰えやすく、老化しやすいと考えることができます。

有神か無神かを見分ける最も簡単な方法は、目を見ることです。「目は心の窓」ともいわれるように、神が充実していればいきいきとした輝きを放ちますが、不足があれば鮮度の落ちた魚のようにどんよりします。この他、表情が豊かで感情表現がしっかりできるか、きちんと会話ができるか、人の問い掛けに反応できるか、声や呼吸に力があるか、体がしっかりしているかなどからも鑑別することができます。

有神

無神

目に輝きがある 目がどんよりしている
表情が豊か 無表情
感情表現がしっかりしている 感情表現ができない
会話がきちんとできる 会話ができない。意味不明なことをいう
問い掛けに反応 問い掛けに反応しない
声に力がる 声が弱々しい。声が出ない
呼吸がしっかりとして安定している 呼吸が弱い。呼吸が乱れる
顔や皮膚の血色がよい 顔や皮膚の色がくすんでいてハリがない
体に力が入って姿勢を保てる 体に力が入らない

つやつやキラキラ有神とどんより無神

この他、得神(とくしん)失神(しっしん)假神(かしん)という分類方法もあります。

得神は有神と、失神は無神と同じ意味です。

假神は、実際は無神なのに表面上は有神のように見える状態を指します。これは臨終の際に現れる特有の状態で、決して吉兆ではありません。重病人が臨終前、急に目の輝きが戻り、顔色もよく、口調もしっかりして、食欲が出るなど、一見元気になったように見えることがあります。これは蝋燭の火が消える直前、一瞬明るくなる現象に似ているため、古い時代の人は「残灯復明」「回光反照」と表現しましたが、正に陰陽が分離する直前の現象です。陰陽が分離してしまうと人は死を迎えます。

 

顔色を診る
面色とは顔色のことです。ひとことで顔色といいますが、実際は顔の色調変化と、肌のつやの明度の観察を行います。古い時代の人は、顔色には五行の色体表にある青・赤・黄・白・黒の五色があると考え、特に顕著に表れている色を判断材料にして診断を行いました。 つまり、青は、赤は、黄は、白は、黒はという風にです。

五行の色体表を見ると、顔は心と最も関係深いことが分かりますが、実は顔には全ての臓腑の影響が現れます。顔の色調や肌のつやを診ることで、 各臓腑の気血や邪気の盛衰を知ることができます。またの有無も見て取ることができます。 一般には、顔色が鮮明でつやがあれば病は軽く、臓腑気血の衰えも少ないと判断でき、治療しやすく、予後も良好であるといえます。逆に、顔色が暗くくすみ、つやもなくやつれていれば、病は重く、臓腑気血の衰えがあり、治療も予後も簡単ではないと判断できます。

顔の各部位と臓腑には以下のような関係があるとされています。

…顔面
眉間の上 …咽喉
眉間(印堂) …肺
眉間の下 …心
心部の下 …肝
肝部の左右 …胆
肝部の下 …脾
左右の小鼻 …胃
頬の下 …大腸
大腸部の外側 …腎
鼻先より上部の両頬 …小腸
両鼻孔の下 …膀胱

顔色を見るには、正常な顔色である常色(じょうしょく)と、疾病に罹患した時に現れる病色(びょうしょく)とを把握しておかなければなりません。

常色は、健康な状態の顔色であり、肌色が明るく、つやがあり、潤った状態を指します。気・血・津液・精・神が充実し、臓腑機能も正常な状態といえますが、この常色にも個人差があります。人種、遺伝、住環境などにより個人の常色は決定されますが、その人の持つ一生変わることのない顔色を主色(しゅしょく)といいます。また時間、季節、天候などに影響されて顔色は変化しますが、これを客色(きゃくしょく)といいます。これらはみな生理現象で、常色の一部です。

病色は、常色以外の全ての異常な顔色を指します。

五色に基づく病の判断基準を表にまとめます。

顔色

五行
五臓
病因

風証・寒証
痛証・血お証

熱証・戴陽証
湿証・虚証
虚証・脱血証
寒証・腎虚証
水飲証・血お証

病であっても比較的顔色がいい場合、臓腑や精気の衰えがさほどではなく、胃気も充分と判断でき、予後が良好と考えられます。しかし、病がそれほどでないのに顔色が悪い場合は、臓腑や精気が衰え、胃気も枯渇していると判断でき、この場合は治療が困難なことを示します。

肝に病がある場合、顔色が青っぽくなるのは当たり前の現象です。ところが、肝に病があるにも関わらず、顔色が黒かったり、赤かったりすることもあります。この場合、黒は腎の色で「水生木」、赤は心の色で「木生火」となり、相生の関係にある臓腑との合併症があることがわかります。これを順証(じゅんしょう)といいます。同じく別の臓腑との合併症がある場合でも、肝の病なのに黄色かったり、白かったりすると、「木克土」、「金克木」があると考えられます。この場合は相剋の関係にある脾や肺とそれぞれ関係があると考えられ、逆証(ぎゃくしょう)といいます。

五色に基づく診断は、この他、皮膚を観察する場合にも用いられます。

 

形態を診る
形態や物腰を見ることは、診断において重要な要素の一つです。五行の色体表からも分かるように、人体の五臓には、それぞれと関係深い器官があります。また体の強弱、肉付き、姿勢の善し悪し、物腰などは、臓腑機能気血津液の状態、陰陽のバランス、病勢や邪気の所在を確認するのに非常に役立ちます。

形態を診る上で重要なものは、体の強弱、肉付き、肢体、体型などの状況です。

骨格がしっかりしていて、胸板が厚く、肉付きが良くて充実し、肌の潤いや色つやが良い状態であれば、強健であるといえます。この場合、臓腑も充実し、気血も旺盛で、予後も良好と考えられます。しかし、骨格が弱々しく、胸板も薄っぺらな感じで、筋肉や痩せこけ、肌は乾燥しているようであれば、衰弱しているといえます。この場合は、臓腑機能も衰退し、気血も不足していて、病も多く、予後は予断を許さない状態ということができます。

太っていたり、痩せていたりするのは、決して正常な状態とはいえません。また、猫背、鳩胸、O脚をはじめ胸部、腹部、四肢などの極端な形態の変化は、臓腑機能気血津液の状態、陰陽のバランス、病勢や邪気の所在を推測する手掛かりとなります。

個人の物腰や動作と病気にも密接な関係があり、これも大事な判断材料になります。明朗快活で、動きが俊敏だったり、落ち着きがない場合は、陽証熱証実証であり、物静かで内向的、動きが鈍いようであれば、陰証寒証虚証であると判断できます。更には、咳の仕方ひとつを取っても、虚実気血津液の状態をある程度把握することが可能です。

 

頭頚・五官九竅を診る
ここでいう頭とは頭と顔を、頚とは頚部を、五官とは目・舌・口・鼻・耳を指し、九竅(きゅうきょう)とは人体にある9つの穴のことで、2つの目・2つの鼻の穴・2つの耳の穴・口・尿道と生殖器(前陰)・肛門(後陰)を指します。臓腑学説からも判るように、体の内側にある臓腑は、体の表面にある五官や九竅と密接な関係があります。またこれらの器官のほとんどは顔に集中しており、首から上を観察することはとても重要です。

 

頭頚を診る

頭を見る時のポイントは、頭部の奇形の有無、大泉門、頭の揺れ、顔の腫れ、耳下の脹れ、顔の歪みなどです。大泉門とは、胎児が産道を通る際、頭の形がある程度自由に変えられるようついている頭蓋骨の間隙のことで、1歳半頃にはなくなるのが普通です。頭部に奇形がある場合は、先天稟賦不足と考えられ、腎精不足があると判断することができます。生後6ヶ月を過ぎても大門線に陥没があれば、ほとんどが虚証といえます。

髪の毛は、色艶や形状、脱毛などの状態を観察します。黒々としていてふさふさで光沢があれば、腎気が旺盛で、精血が充足しているといえます。

首では、首の筋肉の状態、頸動脈、腫れやしこりを観察します。

 

目を診る
目はの竅であり、また「五臓六腑の精気は皆目に上注して目の精になる」ともいわれ、 視力は五臓六腑の生理機能と切っても切れない関係があるといえます。目を見ることは望神において重要であることは既に勉強しました。この他、目からは五臓の変化や病気の診断においても大事で、目を見ることでいろいろな情報を得ることができます。

下図のように、目の各部位は、各臓腑の状態を映し出します。光彩は肝、瞳孔は腎、白目は肺、目頭と目尻は心、上下の瞼は脾となります。

目の各部位と五臓の関係

目を見る時、最初に見なければならないのは眼神(がんしん)です。望神と似た言葉ですが、同様に目の輝きをはじめとする全体的な健康状態をチェックすることです。 白目と黒目の境がはっきりしているか、光彩の筋肉がしっかりしているか、光をちゃんと感知しているか、泪や目脂はどうか、ものははっきりと見えているかなどです。これらが正常であれば眼が有神といい、健康であるか、病気であっても治療は比較的簡単で、予後も良好といえます。反対に、目が濁って白目と黒目の境がはっきりしない、光彩の筋肉のしまりがないか消失、光に鈍感か感知できない、泪や目脂が異常である、ものがはっきり見えないなどの症状があれば眼が無神といい、病気で治療も予後も難しい状態す。

次に見るのは目の色です。ひとつの方法として、五行の色体表を用い、目が青い場合には肝に、赤い場合は心に、黄色い場合は脾に、白い場合は肺に、黒い場合には腎に、それぞれ病があると取ることができます。但し、これに拘り過ぎると判断を誤るので、参考程度にしましょう。 また民族や個人による違いを考慮することも大切です。

この他、各部位の色の変化、眼球、瞳孔、瞼、眼窩、目周辺の筋肉、目の形、目の動き、肉芽や炎症の形状、目に関する状態を観察します。

 

耳を診る
耳はの竅であると同時に、いろいろな臓腑の経絡が集まる場所でもあります。従って耳を見ることは、診断学において重要な意味を持ちます。現代における耳を用いた鍼治療では、臓腑や身体と関連のある耳の部分を区別して治療を施します。

耳を見る場合、主に耳の形や色艶、状態、分泌物の有無や変化を観察します。健康な人の耳は、肉厚で色艶がよく、先天腎陰が充実していることを表しています。耳垢は、普通、外耳道の耳垢腺から分泌される分泌物に、皮脂腺からの分泌物や、空気中のほこり、皮膚のはがれ落ちたかすが混ざったもので、耳垢が多すぎると耳の閉塞を起こします。

 

鼻を診る
鼻はの竅であり、脾胃の経絡とも関係深い器官です。鼻を見る場合、注意すべきはその色艶と形態です。

 

口唇を診る
は口に開竅し、そのは唇にあります。胃の経絡は口唇部を通っているので、口唇を見ることで脾胃の病変を見て取ることができます。一般的には、形、色、潤いなどの変化を観察します。

唇の色の観察は、基本的には顔色準じます。唇の粘膜は薄く透明なので、色の変化がわかりやすく、望診にはとても役に立ちます。 唇の色が赤く潤っているのが健常人の特徴で、胃気が充足し、気血の調和が取れているといえます。

 

歯・歯茎を診る
歯は骨の余りであり、この骨を主るのはです。また胃と大腸の経絡は歯茎を通っています。従って、歯や歯茎を見ること で、腎・胃・大腸の病気による変化を見るこができます。特に、ある種の診断には重要で、熱による症状や熱によるの津液の消耗を見る上では力を発揮します。

歯や歯茎を見る場合、潤いの有無、色艶、形状、歯ぎしりなどを観察します。歯が純白で艶やかなのは、津液が十分にあって腎気が充実していることを表します。仮に病気であっても、津液までは傷ついてないことを示します。

 

咽喉を診る
咽喉はの門戸であり、呼吸と飲食にとって重要な器官であるといえます。諸々の経脈は咽喉を通っていることから、多くの臓腑の病理変化を咽喉から観察することもできます。特に、肺・胃・の病を見る場合、診断に大きな影響を与えます。

咽喉を見る場合には、色艶、潤い、形状、偽膜などを観察します。正常な咽喉は、淡紅色で艶があり、潤っていて、腫れや痛みがなく、呼吸、発声、飲食物の嚥下などが全てスムーズに行われます。咽喉の疾患に関しては種類が多いので、ここでは一般的なものだけを紹介します。

 

下竅を診る
下竅とは前陰後陰を指し、前陰とは生殖器と尿道、後陰とは肛門のことを表します。は二陰に開竅し、大小便の二便を司ります。男性器は腎に通じ、女性器は子宮に通じて腎とも関連深く、尿道は膀胱に通じます。また下竅にはいろいろな経絡が集り、通過してゆきます。従って、下竅を見ることは臓腑経絡の病理変化を観察する上で非常に重要といえます。

 

皮膚を診る
皮膚は全身の表面にあって人体を垣根のように覆い、その中を衛気が循行し、臓腑と内合しています。外邪は、最初に皮膚表面に影し、そして臓腑や気血津液に影響を与えます。また臓腑気血の状態は経絡を通し、症状として皮膚表面に反映されます。言い換えれば、皮膚の色艶や形態の異常を見ることで、邪気の性質、気血津液の盛衰、内臓の病変、予後の判断などを知ることができます。

皮膚を診る場合、皮膚や体毛の色艶と潤い、形状、斑点や湿疹などの皮膚の変化を観察します。皮膚の色艶や目で見て判る五色の変化は、基本的に前出の通りです。この他、特殊な場合もあるので注意しましょう。

絡脈と爪を診る
ここでいう絡脈とは、三歳以下の小児のものを指します。成人の脈診に関しては、切診で詳しく説明します。小児は皮膚が薄くて軟らかいので、人差し指で脉を見ることができます。しかし、泣いたり、動いたりすると見にくいので、その場合には、魚際(ぎょさい)という親指の付け根から掌にかけての盛り上がりを観察します。

魚際        絡脈        

人差し指の脉の見方について説明します。指先から第一関節までを命関、第一関節と第二関節の間を気関、第二関節から指の付け根までを風関といいます。脉を見る時は、明るい方に向けて供を抱き、左手で子供の人差し指を支え、右手の親指で命関から風関に向かって、何度か脉の部分をさすって観察します。 

正常な絡脈の色は、淡紅色か黄色がかったピンク色で、風関部分にうっすら判る程度です。多くは、斜形で一筋であり、適度な太さがあります。但し、太さや長さは、気温の影響を受けやすく、暑いと太く長くなり、寒いと補足短くなります。また長さは年齢によっても変化し、一歳以下では長く、年齢が増すとともに短くなる傾向にあります。脉の深浅や色艶、形状により、邪気の性質、表裏寒熱虚実陰陽を知ることができます。

爪は筋余といわれ、気血と関連深い肝胆の状態が現れやすい部分です。正常な爪は、赤みがたったピンク色で光沢があり、適度な潤いと硬さがあって弧を描いています。先端を押して放せば、血色はすぐ戻ります。これは気血が充分にあって、流れも良いことを示します。爪の色艶、形状、圧力を加えた状態などを観察することにより、気血の状態を把握することができます。

 

排泄物と分泌物を診る
排泄物とは人体が体外に排出する代謝産物、分泌物とは五官九竅から分泌される液体のことで、病理的な状況下では分泌物はしばしば量が増えます。この二つをまとめて排出物といいます。排出物には、大小便、経血、おりもの、嘔吐物、痰、鼻水、唾液、涎、泪、汗、膿などがあります。排出物は、その色、形状、質、量の変化などを観察することで、臓腑の病変や邪気の性質を知ることができます。

痰は肺や気道に排出される粘液で、ねばねばしていて汚いものを、薄くて比較的さらさらしたものをといい、どちらも有形の痰に属します。鼻水は鼻腔に分泌される粘液、唾液はは口腔内に分泌される泡沫を含む粘液、涎は同様に口腔内に分泌される希薄な粘液です。痰や鼻水はと関係の深いものですが、「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」といわれ、痰はの状態を知る上でも重要になります。唾液は、涎は脾と関連があり、それぞれ臓腑の状態を把握することができます。また形状、色、量から寒熱虚実、邪気の種類などを知ることができます。

嘔吐は胃気上逆により起こる現象で、嘔吐物は飲食物、希薄な水分、痰、涎、膿や血液の混じったものなど多種多様です。嘔吐物の色、形状、質を見ることで、胃気上逆の原因を探ることができます。

その他の排出物についての詳細は、別に詳しく説明します。

舌を診る
舌診は古典の中にも既に記載があり、13世紀には舌診の専門書ができて、16世紀に入るととても重要視されるようになり、急速な発展を遂げてきました。現在、舌診は、中医学独特の診断方法として理論的に確立されています。

現代医学における各種検査のように、中医の臨床における舌診は、客観性のある数少ない根拠のひとつといえます。中医学的な診断には、八綱弁証気血津液弁証臓腑弁証はじめ、衛気営血弁証、六経弁証、三焦弁証などいろいろな診断方法がありますが、どれにおいても舌診は重要な位置を占めています。舌象の変化は、正気の盛衰、病邪の深浅、邪気の性質、病気の進退などを客観的に反映するため、病気の発展、変化、予後などを判断でき、治療に生かすことができます。但し、例外的に、重病人であっても舌に変化が現れない場合や、健常人なのに舌に異常が現れる場合もあるので注意深く診断することが重要です。

正気の盛衰を見るには、舌の全体像を観察します。舌自体が赤みがかったピンク色で適度の潤いがあれば、気血が旺盛であるといえます。白っぽい感じなら気血の虚衰が見て取れます。苔が白色で薄く、潤っていれば、胃気が旺盛といえます。しかし、苔がなくて鏡のようにテラテラしていると、胃気や胃陰の枯渇があると判断できます。

病邪の深浅は、苔の観察により判断することができます。苔が薄い場合、多くは疾病の初期で、病位は浅く、病邪はにあるといえます。苔が厚い場合、病邪はにあって、病位は深いといえます。この他、舌自体の色が深い赤色なら、熱邪が奥深くに入り込み、重篤であると判断できます。

邪気の性質は、舌全体で判断します。例えば、苔が黄色ければ熱邪、白ければ寒邪といえますし、べったりした苔が厚くついていれば食滞痰濁といえます。舌が曲がっている場合は風邪、紫色の斑点があればお血といえます。

病情の進退は、苔の変化により判断します。苔の色と質などの変化は、往々にして正邪の消長、病情の進退と対応しているといえます。外感熱病では変化が特別早いのですが、内傷によるいろいろな病気同様、病状の進退が舌に反映されます。例えば、苔の色が白色から黄色に変わったり、更に進んで灰黒色になるのは、邪気が表から裏に入ったことを、苔の厚みが厚くなるのは寒から熱に変化したことを、潤っていた苔が乾燥するのは、徐々に熱が壮んになって津液が消耗していることを表しています。逆に、厚かった苔が薄くなり、だんだん潤ってくるのは、徐々に病邪が退いて津液が回復していることを示します。但し、臨床上特殊な状況として、重病であるにも関わらず舌象に大きな変化がない場合や、健常人なのに舌象が以上な場合もあります。ですから、舌を観察する場合には、四診合参を念頭に全体的に分析をして、的確な診断をすることが重要です。

ここで、舌の構造、臓腑の関係、舌診の原理についてお話ししましょう。

舌とは、口腔の底、下顎骨、舌骨に付いいる器官で、横紋筋の表面を粘膜が覆った平らな突起物です。舌には裏表があり、中医学では、表を舌面、裏を舌底と呼びます。舌の表面には、三種の舌乳頭があり、それぞれ絲状乳頭、茸状乳頭、葉状乳頭と呼ばれます。これらは、味覚を感知したり、声を調節したり、食物を撹拌したりするはたらきがあります。舌のこのような構造は、五臓六腑気血津液と密接な関係があります。

舌と臓腑は、主に経絡と経筋により、直接的に或いは間接的に関係しています。臓腑の精気が舌を栄養しているため、臓腑の病理変化や精気の変化が必然的に舌象に反映されるのです。臓腑の中でも、心、脾、胃はそれぞれ「舌は心の苗竅」「舌は脾の外候」「舌苔は胃気の薫蒸したもの」という表現があることからも、特に密接であることが見て取れます。これらの表現は、どれも舌を観察することで、心、脾、胃の状態を把握できるということを表しています。

舌質の血管は最も豊富で、が結脈を主っていることと関係があります。舌がスムーズに、声を調節したり、言語を形成できるのは、心が神志を主っていることとも関係があります。心は五臓六腑を統べる君主の官で、全身臓腑気血の状態を主催しているため、全身臓腑気血の状態が心に反映されます。従って、臓腑気血の疾病は、必然心を通して舌に反映されるといえます。

舌は味覚を感じ、食欲に影響します。これはの運化との受納に関係があります。脾胃は後天の本であり、言い換えれば気血を作り出す源であるため、全身の全ての器官に少なからず影響を及ぼします。このことから、舌象は単に脾胃の状態を反映しているのではなく、全身の気血津液の盛衰を表しているといえます。それだけでなく、五臓六腑の精はみなにも帰属します。腎は先天の本であり、その経脈は舌と関連があります。つまり五臓六腑の精気は、後天の脾胃と先天の腎を通して舌と関係し、五臓六腑の病理変化を知ることができるといえます。

舌の表を見る場合、具体的には二通りの区分けができます。一つは胃経由来の区分けで、舌尖が上脘、中央が中脘、舌根が下脘とするものです。もう一つは五臓六腑由来の区分けで、舌尖が心肺、中央が脾胃、側面が肝胆、舌根が腎とするものです。後者の区分けでは、肝胆を更に、左側面が肝、右側面が胆とするものもあります。再度確認しますが、臨床上は四診合参が大事です。あまり拘りすぎると診断に支障を来すので注意しましょう。

胃由来        五臓六腑由来

舌診を行う際の注意点をお話しします。

照明などの明るさ、顔の陰影などは、舌診に大きく影響します。常に一定の条件で、見間違いのないよう注意する必要があります。最も良いのは、柔らかな自然光が十分な場所での観察です。もし、夜や暗い場所で観察するのであれば、日光に近い色調の電球の下で観察し、後日必ず日中に再度観察するようにします。どの場合でも、壁、窓枠、扉など周辺の色が反射しない場所で観察することが大切です。

舌診を受ける側は、背筋を伸ばした姿勢で、できるだけ口を開けて、舌がリラックスした状態で自然に舌が口の外に向かって伸びるようにしっかりと出します。舌が緊張していたり、巻いていたり、反っていたり、余分な力が入っていたり、あるいは舌を長時間出していたりすると、どれも舌の血液循環に影響し、舌が鬱血して正しい判断ができなくなります。このような場合は、舌がリラックスした状態で、左右に広がり、下に垂れ下がるよう受け手に何度が舌を出す練習をさせるとよいでしょう。

舌診は一定の順序に従って行う習慣を付けましょう。一般的には、まず舌苔の有無、厚み、腐膩、色、潤いなどを観察し、次に舌体の色艶、斑点、胖痩、老嫩、形態などを観察します。方向としては、舌尖から舌根に向かって観察するのがいいでしょう。

飲食は舌診に大きな影響を与えます。飲食物や薬物で舌体が染まることを染苔といいます。例えば、牛乳を飲んだ後や子供が母乳を飲んだ後は、大抵舌体に白色の付着物が見られます。ナッツ類、豆類など脂肪分の多いものを摂った後は、短時間ではあるものの舌面に黄白色の滓が付着し、腐膩苔のように見えることがあります。お茶、コーヒー、葡萄果汁、お酒や、鉄分を含むサプリメントなどを摂った後は、往々にして舌苔が黒褐色や茶褐色になることがあります。卵黄、柑橘類、柿、色のある果物、着色したお菓子、黄連やリボフラビン(ビタミンB2)などの薬物を摂った後は、舌苔が黄色くなります。この他、飲食物による摩擦や舌の苔を刮げる習慣のある場合、舌苔の厚みが変化します。冷たいものや熱いものの過食や、刺激性のものを摂った後は、舌の色が変化します。口呼吸や水を飲んだ直後は、舌面の潤いに変化が現れます。これら一つ一つに注意して舌診を行いましょう。

正常な舌象は、季節や時間の変化によって微妙に変化します。例えば、夏の蒸し暑い時期には、舌苔は厚くなったり、淡黄色になったりすることがあります。秋の乾燥して気温の下がる時期には、舌苔は薄く乾燥することがあります。冬の寒さ厳しい時期には、舌は常に湿り気を帯びます。また朝は舌苔が厚く、日中食事をした後には薄くなったりします。起床した直後は、舌の色は暗く、動いた後は赤くなります。

健常人でも、年齢や体質の違いから舌象は一致しないことがあります。高齢者は気血が徐々に不足するため、裂紋や舌乳頭が萎縮が見られる場合があります。小児は舌の疾患に罹りやすく、白屑や剥苔が見られる場合があります。太っている人の舌の多くは大きくて舌質が淡です。反対に体が痩せている人は、舌も痩せていて赤みが強いのが特徴です。しかしこれらは参考程度で、臨床上は具体的な状況と合わせて考える必要があります。

この他、舌面の潤い、苔の密度、苔が有根か無根かなどの状態をより詳しく知るために、舌面を刮げたり、拭ったりする方法もあります。

ここからは、舌診の詳細について説明しましょう。

舌診で主となるのは、舌質と舌苔の状態です。舌質(ぜっしつ)舌体(ぜったい)ともいい、舌の肌肉脈絡組織を指します。舌苔(ぜったい)は、舌体上に付着した苔状の物質のことです。舌質については神・色・形・状態の4つの方面から、舌苔については色・質の2つの側面から観察し、最後に舌質と舌苔から総合的に判断します。

正常な舌象は淡紅舌・薄白苔です。更に詳しくいうと、舌体は柔軟で動きがスムーズ、鮮やかな淡紅色で、大きさや厚みが丁度良く、形態にも異常が見られない状態であり、舌苔は白色で顆粒が均一、うっすらと舌の表面を覆い、有根で拭い去ることができず、適度の湿り気を帯びた状態をいいます。

では、舌質の観察に必要な神・色・形・態について、それぞれ詳細を説明しましょう。

舌神は、舌の柔軟性と動き、舌質の栄枯を表します。

有神。舌質に張り、艶、潤いがあり、赤みがあって活き活きしている。生気がある。
病が快方に向かっている兆候。

有神。舌質が乾燥して枯れたようで艶がない。生気がない。
病が重篤であるよくない兆候。

舌色は大きく5つに分類することができます。尚、どのタイプにおいても、青みがかっていたり、暗い感じがあれば、お血があるといえます。

淡白舌

正常な舌に比べて赤みがなく、ひどいと全く血の気がない。
陽気不足、陰血生成能力低下、推動作用低下などにより、血液が舌を営養できない。
虚証寒証・気血両虚など。
淡白で湿り気があって胖嫩なら、多くは陽虚寒証。
淡白でてらてらしていたり、痩薄なら気血両虚。

紅舌 正常な舌に比べて赤みが深く、ひどいと鮮やかな鮮紅色を呈する。
熱があれば血行はよくなるが、気血は煮詰まるため、舌が充血する。
主に熱証
鮮紅色で芒刺があって黄膩苔の場合、多くは実熱証。
鮮紅色で苔が少なく、裂紋があったり、無苔で赤くてらてら光る場合は虚熱証。
絳舌 紅舌より更に深い赤色を呈する。
外感病・内傷どちらにも見られる。
外感病で、紅斑、芒刺などあれば、温病が営血に入ったことを示す。
内傷病で、苔が無いか、あっても少なく、裂紋があれば陰虚火旺。
内傷病で、苔が少ないが潤っている場合、多くは血お証
紫舌 紫色。
寒熱どちらにも見られる。
絳紫で枯れたように乾燥している場合は、熱盛少津または気血壅滞。
淡紫または青紫で潤っている場合、多くは血お証
青舌 静脈が浮き上がったような青い色で赤みがない。古くは「水牛の舌」とも。
陰寒之邪が勝って陽気が鬱滞して巡りが悪くなり、血液が滞るために起こる。
多くは寒凝陽鬱または血お証
舌が全体的に青い場合、寒邪が肝腎に直中したことによる陽気鬱滞。
舌の周辺が青く、口が乾いて漱ぎたいが、それほど飲みたくない場合は血お証

舌形は以下のように分類されますが、特定の病証にしか見られない特殊なものもあります。

老嫩

虚実の判断に用いる。
老(ろう)
とは、舌の肌理が荒く、堅く枯れた様子。舌苔に関係なく、全て実証
嫩(どん)とは、舌の肌理が細かく、むくんでいて軟らかく力無い様子。虚証

胖大 正常な舌に比べて大きく、舌が伸びて口内いっぱいに舌が広がっている様子。
多くは痰飲水湿による。
胖嫩で、舌質淡白、舌苔が水っぽく滑らかな場合は脾腎陽虚で津液不化。
胖大で、舌質淡紅か紅、黄膩苔の場合は脾胃湿熱・痰濁相搏・湿熱痰飲上溢。
腫脹 舌が口内いっぱいに腫れて大きくなっている様子で、ひどいと口を閉じることができなかったり、ひっこめることができなかったりする。
心脾有熱・中毒・先天性の舌の血管の閉塞などにより起こる。
痩薄 舌が痩せて薄い様子。
気血津液の不足により、舌を営養できない。
主に気血両虚・陰虚火旺。
痩薄で淡白なら、多くは気血両虚。
痩薄で紅絳、乾燥していれば、多くは津液消耗または陰虚火旺。
点刺 点(てん)とは、舌面にできる赤色、白色、黒色などの斑点。
刺(し)芒刺(ぼうし)ともいい、舌面にできる軟らかい棘または顆粒のことで、数が増えるだけなく、徐々に棘のように隆起して触るとザラザラするもの。
点、刺とも舌尖に発生しやすい。
大きさ、形が不定で、青紫色や黒紫色の斑点をお点、隆起していないものをお斑といい、どちらも外感熱病で熱が営血に入ったり、気血が壅滞した場合や、内傷のいろいろな病気で血お証の場合に見られる。
芒刺は熱邪内結により見られる。
芒刺があって焦黄苔なら気分熱極。
芒刺があって、絳舌無苔なら熱が営血に入り、陰分を消耗した状態。
また芒刺の発生する場所で、どの臓腑に熱があるか判断できる。例えば、芒刺が舌尖にあれば心火亢盛、舌中にあれば胃腸熱盛など。
裂紋 裂紋(れつもん)とは、舌面にできる深さ、長さ、形などが一定しない亀裂のこと。
刃物で切ったようなもの、短い横皺、縦形、横形、#形、×形、輻射形、脳のような形、玉石の模様のような形などいろいろな形があり、陰血虧損で舌面を営養したり、潤すことができないために起こる。
熱盛傷陰・血虚不潤・脾虚湿侵で見られる。
裂紋があって紅絳舌なら、多くは熱盛傷津または陰虚液涸。
裂紋があって淡白舌なら血虚不潤。
裂紋があって淡白舌で、胖大、歯根があれば脾虚湿侵。
光滑 光滑舌(こうかつぜつ)とは、鏡面舌(きょうめんぜつ)ともいい、舌面が鏡のように滑らかできれいだったり、苔が無く滑らかで艶がある状態を指す。
胃陰涸渇、胃気大傷で、少しも気が生じてないために見られる。
舌色に関わらず、どれも胃気が絶えようとする危険な兆候。
鏡面舌で淡白舌なら、脾胃損傷で気血の消耗が激しい。
鏡面舌で紅絳舌なら、胃腎陰易涸渇。
歯痕 歯痕(しこん)とは、舌体の周辺に見られる歯の痕のこと。
舌質が胖大であれば、舌が歯に押しつけられて痕が付く。そのため胖大と同様の意味を持つ。
主に脾虚湿盛
歯痕があって淡白舌で湿った感じであれば寒湿壅盛。
歯痕があって淡紅舌であれば、多くは脾虚または気虚
重舌 舌重(ぜつじゅう)とは、舌下静脈が腫れて膨れあがり、まるでもう一枚舌があるかのように見える状態を指す。もし、二三カ所血管が腫れて繋がっていれば蓮花舌(れんかぜつ)と呼ぶ。
主に心経火熱による。
心火または外邪が心火を引き起こした場合に見られる。
小児に比較的多く見られる。
舌衄 舌衄(ぜつじく)とは、舌出血。
心経熱甚妄行・肺胃熱盛・肝火脾不統血・陽浮など。
舌癰 舌癰(ぜつよう)とは、赤く腫れの大きい舌上のできもので、往々にして下顎に向かって広がり硬く腫れるものをいう。
心経火熱亢盛による。
舌下の場合は、脾腎積熱により、津液が消耗したことによる。
舌疔 舌疔(ぜつちょう)とは、舌上にできる豆粒大で紫色をした血豆状のできもので、硬い芯があって激痛を伴うものをいう。
心脾火毒による。
舌瘡 舌瘡(ぜつそう)とは、舌のいろいろな場所にできる粟粒大で痛みのあるできものをいう。
舌面に突出して傷むようなら心経熱毒
陥没して無痛なら下焦陰虚による虚火による。
舌菌 舌菌(ぜっきん)とは、舌にできるよくないできもので、表面は赤く糜爛し、浸出物は臭く、激痛で飲食もままならないほど。最初は豆粒大だったものが、段々ときのこのように頭が大きく柄が小さく成長する。水に浮かぶ蓮の花や菜の花、鶏冠にも例えられる。
心脾鬱火による気結火炎が原因。
潰瘍を起こし、糜爛するのはよくない兆候。
成長の速度が緩慢で、潰瘍や痛みのないものは予後が良好。
舌下絡脈 舌下絡脈(ぜっからくみゃく)とは、舌下静脈がぼんやり見えたり、太く青紫色に見えるものをいう。
正常な舌下静脈は、さほど太くはなく、分枝やお点は見られない
全てお血による。
青紫色や黒紫色の血豆状の隆起があれば、多くは肝鬱失疏が原因。
舌下静脈が青紫色で太くて怒張があれば、痰熱内阻または寒凝血瘀。

舌態は舌体の動態のことで、以下のように分類されます。

強硬
きょうこう

舌体が硬く硬直してスムーズに動かず言語が不自由になること。
このような状態の舌を舌強(ぜつきょう)ともいう。
外感熱邪心包への侵入。
高熱による津液消耗
肝陽上亢・肝火上炎
肝風狭痰。
中風・中風の前兆。
舌質深紅なら多くは熱盛、舌質胖大で舌苔がねっとりしていたり厚ければ痰濁、舌質淡紅か青紫なら中風。

さん軟
さんなん
舌体が軟弱で屈伸に力がなく、だるそうな感じで動きがスムーズでないこと。
このような状態の舌をさん軟舌(さんなんぜつ)という。
気血両虚。
津液消耗
陰虧已極。
慢性疾患で舌質淡なら気血両虚、最近発症した病気で舌質紅で乾燥があれば熱灼津液、慢性疾患で舌質絳なら陰虧已極。
顫動
せんどう
舌体が意志と関係なく震え動くこと。
このような状態の舌を顫動舌(せんどうぜつ)顫抖(せんとう)舌戦(ぜつせん)など呼ぶ。
気血両虚。
亡陽傷津。
熱極傷津動風
慢性疾患でゆっくり小さく動くものの多くは気血両虚または陽虚。
動きが速く、比較的大きく震えるものは、外感熱病による熱極生風または酒毒。
歪斜
わいしゃ
舌がどちらか一方に歪んだ状態のこと。
このような状態の舌を歪斜舌(わいしゃぜつ)という。
風邪中絡。
風痰阻絡。
病変が右側にあって舌が左側に歪んだり、逆に病変が左側にあって舌が右側に歪むのは、中風または中風前兆。
舌が赤紫で急に発症する場合の多くは肝風発痙。
舌が淡紅で緩やかに発症する場合の多くは中風偏枯。
吐弄
とろう
舌が口外に伸びて出ていることを吐舌(とぜつ)という。
舌が僅かに露出しているもののすぐに戻すことができたり、唇を舐めたり、絶えず舌を動かしているものを弄舌(ろうぜつ)という。
どちらも心脾有熱が原因。
吐舌で舌全体が紫色の場合、多くは疫毒攻心。
弄舌は動風前兆や小児発育不全でよく見られる。
短縮
たんしゅく
舌が緊張して縮み、伸ばせない状態のこと。
このような状態の舌を短縮舌(たんしゅくぜつ)という。
虚実どちらでも起こるが、重篤な症状。
舌が淡白か青紫で湿潤であれば、多くは寒凝筋脈。
舌質胖大で舌体粘膩であれば、多くは痰濁内祖。
舌紅絳で乾燥していれば、多くは熱盛傷津動風。
舌質淡白で胖大であれば、多くは気血両虚。
舌縦
ぜつじゅう
舌が口外に長く伸び出て、口内に回収することが出来なかったり、縮めることができないこと。
このような状態の舌を舌縦(ぜつじゅう)という。
舌の筋肉が伸びきったことが原因。
舌質が深紅色で脹満、舌形が堅く乾燥していれば、実熱内踞または痰火擾心。
舌体が伸びきって痺れて力が入らないようなら気虚証
舌が伸びて縮まず、乾燥して苔がなければ、多くは重篤な状態であり、伸びても縮めることができて、舌体が潤っていれば、症状は比較的軽い。
舌麻痺
ぜつまひ
舌に痺れた感じがあって動きがスムーズでない状態。
このような状態の舌を舌麻痺(ぜつまひ)という。
営血が舌を養えないことが原因。
血虚
肝風内動。
風気挟痰。

舌苔はその色と質を観察します。病的な苔の色は、主として白・黄・灰・黒の4色に分類されますが、他に緑苔やばい醤苔なども見られることがあります。

白苔

一般的に表証寒証で見られる。
傷寒太陽病・温病衛分証など外感の邪が裏に到達していない場合、苔に変化が現れないことが多く、正常と同じ薄白苔を示す。
舌質淡で苔が白く湿潤していれば裏寒証または寒湿証。
特別な場合として熱証でも見られる。
舌全体に粉が堆積したように白苔が広がり、触ると乾燥してない場合を
積粉舌(せきふんぜつ)粉白舌(ふんぱくぜつ)といい、熱毒内盛による瘟疫または内癰による。
白苔が砂のようにザラザラし、乾燥して裂け、触ると肌理が粗くてざらつく場合を
そう苔(そうたい)裂苔(れったい)といい、温病または温補の薬剤の誤用で見られる。

黄苔 一般的に裏証熱証で見られる。
熱邪が苔を燻すために黄色くなるので、淡黄色では軽度、深黄色では重度、焦黄色では熱結と判断できる。
傷寒陽明病・温病気分証など、表邪が裏に入って熱化すると白苔が黄苔に変化する。
薄淡黄苔の場合、外感風熱表証または風寒化熱。
舌質胖嫩で淡で、苔が黄色く湿っていれば、多くは陽虚水湿不化。
灰苔 浅黒い苔を指す。
白苔からも黄苔からも発展。
主に裏証で見られ、裏熱証や寒湿証でよく見られる。
灰苔で乾燥している場合は、外感熱病・陰虚火旺など熱により傷津した内傷雑病。
灰苔で湿っている場合は、痰飲内停または寒湿内阻。
黒苔 比較的色の濃い灰苔。
灰苔または焦黄苔から発展。
重篤な疫病・裏証・熱極・寒盛。
黒苔で乾燥して裂け、芒刺があれば、多くは熱極津枯。
黒苔で湿っていれば、寒盛陽衰。
緑苔
ばい醤苔
緑苔の多くは、白苔から発展したもので、淡緑色、深緑色の違いがあり、熱が原因。
緑苔で舌全体が滑膩であれば、湿熱痰飲または陰邪化熱による湿熱鬱蒸で、温疫や温病に見られる。
ばい醤苔(ばいしょうたい)は、苔が黒っぽい紅色または黄色を帯びた紅色のものを指し、多くは胃腸の湿濁が長期にわたり滞って化熱したのが原因。
夾食中暑・夾食傷寒潰瘍病・内熱久鬱。

苔質とは舌苔の形質のことで、厚み、潤い、質感、範囲、剥離の有無や取れやすさ、変化などを観察します。

厚薄

舌苔の透過性、つまり舌自体が見えるかどうかで、邪気の深浅を判断する。

ぼやっとした感じで舌自体が見える場合を薄苔(はくたい)といい、薄苔は胃気により生まれたもので、正常な舌苔である。
疾病でも薄苔が見られるが、その場合は外感表証・軽度の内傷などで、病が軽く、まだ正気も損なわれす、邪気も旺盛でないと判断できる。

舌自体が見えない場合を厚苔(こうたい)といい、胃気が湿濁の影響を受け、邪気が旺盛でに入っていることを示し、 痰飲水湿・過食、偏食、消化不良などによる食滞で見られる。

潤燥 舌苔が潤っているかどうかで、水分代謝の状態を把握する。

舌苔が潤っていれば水分代謝が良好な正常な舌苔である。
疾病でも舌苔に潤っていれば、津液が体の上部にまで行き渡っていると考えられ、津液の損傷はないといえる。

舌苔は湿ってつるつるし、ひどいと涎が流れ落ちそうになるのは水分過多で、滑苔(かつたい)という。
滑苔は湿などにより、三焦の陽気が衰退して運化水湿ができなくなり、痰飲水湿が溢れるために起こる。

乾燥して枯れたようなのは津液不足で、燥苔(そうたい)という。津液不足がひどく、顆粒が砂粒のように粗くてザラザラと引っかかる感じになるものをぞう苔(ぞうたい)、舌が板のように硬く、裂紋のあるものを燥裂苔(そうれつたい)といい、津液の状態の変化を判断できる。
津液不足、熱盛で津液を消耗、あるいは陽虚で気化ができない、燥邪によりが消耗するために起こる。ぞう苔は熱盛傷津に多く見られる。

特殊な場合として、湿邪があるのに苔が乾燥していたり、逆に熱邪があるのに苔が潤っている場合がある。前者は湿邪が気化を邪魔して津液を作れないために起こり、後者は熱邪がまで侵入し、血の中の津液を揮散させるために起こる現象。

腐膩 舌苔の腐膩を観察することで、陽気と湿濁の変化を判断する。腐苔は余分な陽気や熱が原因で、膩苔は陽気が圧迫を受けることで発生する。

まるで舌に豆腐の滓が堆積したように、苔の顆粒がふんわりとして軟らかく、粗くて大きく、厚みがあって、掻き取ることのできるものを腐苔(ふたい)という。暗く垢のように汚いものを浮垢苔(ふこうたい)、まるで傷口の膿のように、舌上にねっとりと厚く層をなすものを膿腐苔(のうふたい)、舌上に白い膜の層があるようだったり、飯粒のような粥状のものがあるものをばい腐苔(ばいふたい)という。
腐苔は食積や痰濁に多く見られ、原因の多くは、余分な陽気や熱により中の腐濁の気が炙られて上昇するためだが、他に腫瘍や湿熱による口内糜爛でも見られる。
舌苔が板のように滞って剥がれないでいると腐苔になる。腐苔が徐々に退いて、うっすらと新しい苔ができてくるのは、正気が邪気に打ち勝っていることを表し、病が快方に向かっているといえる。
肺、胃、肝臓などの腫瘍や梅毒が全身に回った状態では、膿腐苔が見られ、これは邪気が強く、病が重篤である。
胃中で消化しきれないものが腐り、津液を化すことができないとばい腐苔が現れる。

舌に油膜が張ったようにねっとりと層をなし、苔の顆粒が細かく緻密で、掻き取ることができないものを膩苔(じたい)という。顆粒が緻密で粘着性があり、垢のように汚くぬるぬるしているものを粘膩苔(ねんじたい)、顆粒が均一でなく、垢のように汚くべとべとしたものを垢苔(こうたい)または濁苔(だくたい)という。

膩苔の多くは、湿濁内蘊や陽気が滞りが原因で、湿濁・痰飲・食積・湿熱・頑淡などで見られる。
黄膩苔の多くは、痰熱・湿熱・暑湿・湿温・食滞・湿淡内結・腑気不利。
白滑膩苔は、湿濁・寒湿。
白く粉を吹いたように、苔がねっとりして厚いのにつるつるでない場合、多くは季節の邪気が湿と絡み合ったものが、体内からわき上がるために発生する。
白膩苔で乾燥がなく、胸悶など自覚症状があれば、多くは脾虚湿重。
白厚苔でねっとりしていて、口内が甘いのは脾胃湿熱

偏全 舌苔の分布を観察することで、病変の所在を確認する。

舌一面に舌苔があるものを全苔(ぜんたい)という。
全苔のほとんどは邪気が全身に広がっていることを表し、原因は中焦湿痰がある場合が多い。

舌苔が、舌の前後左右、中側、外側など部分的に分布するものを偏苔(へんたい)という。
舌苔が舌尖の外側のみにあるものを偏外苔(へんがいたい)といい、邪気がまだの奥深くには侵入してないものの、既に胃気の消耗がある場合に見られる。
舌苔が舌根の内側のみにあるものを偏内苔(へんないたい)といい、表邪は減少しているものの、は依然として滞っていることを示す。
中根部に舌苔が少ない場合、胃陽も腎陰も上部に行き渡ってないことを示し、津液全てが消耗しているといえる。
中根部に舌苔がある場合は、もともと痰飲があるか胃腸積滞。
舌辺は肝胆を表すことから、舌苔が左右どちらか一方にのみある場合、多くは半表半裏か、そうでなければ肝胆湿熱等と考えられる。また、滑苔左側のみにある場合は、邪気がに侵入していて最も難治といえ、右側のみにある場合は、邪気が肌肉にあって半表半裏とする説もある。

剥落 舌苔の剥落を観察することで、胃気や胃陰の存亡を推量でき、疾病の予後を判断できる。

舌苔が全くなくてきれいな鏡のような舌を光剥苔(こうはくぜつ)または鏡面舌(きょうめんぜつ)という。

舌苔の一部が剥脱してつるつるし、他の部分は斑に舌苔があり、境界が明らかなものを花剥苔(かはくたい)といい、舌苔の剥脱が大きく不規則な形で、縁が厚苔で境界のはっきりしたものを地図舌(ちずぜつ)、剥脱部分がつるつるでなく、新しい顆粒が出来ているように見えるものを類剥苔(るいはくたい)という。
花剥苔は胃気と胃陰両方の消耗を表す。
花剥苔で膩苔もある場合、多くは痰飲を化すことができず、正気も消耗していて、病の状況は複雑である。
類剥苔は慢性病で、が補充できないことを示す。
厚苔の中心の一片が剥落したり、皺が寄ったり、陥没部位があって、底が赤く乾燥して見えるようなら、中焦涸渇による液脱を防がなければならない。

消長 舌苔の厚み、量、有無などの変化の様子は、正邪の闘争を反映し、疾病の進退や予後を判断できる。

少なかった舌苔が多くなったり、薄かったものが厚くなったりすれば、普通邪気がが段々盛んになり、病が進行しているといえる。逆に、多かった舌苔が少なくなり、厚かったものが薄くなれば、正気が徐々に回復し、病が快方に向かっているといえる。

舌苔はその都度変化するため、急激に舌苔が増えたり、無くなったりするのは、病の状態も激しく変化しているといえる。薄かった舌苔が急に厚くなるのは、正気が激しく衰退し、邪気が急激にに入ったと説明でき、反対に舌一面に厚くあった舌苔が急に消失するのは、胃気が激しく消耗していることを示す。

舌苔が変化した後無くなり、その後薄白苔が新生される場合、胃気が徐々に回復し、食物から気の補給ができている良い兆候で真退真化(しんたいしんか)という。
しかし、突然舌苔が消失して新生せず、鏡面舌になるのは、胃の気陰が涸渇した悪い兆候で假退(かたい)という。また何ヶ所も剥落して花剥苔を形成したり、舌一面にあった厚苔が突然消失し、舌面に汚くねっとりした湿や赤い斑点、あるいは皺などが一、二日現れて、続けて厚苔が現れるのは、で湿濁邪盛正気邪気とも保っているといえる。

真假 舌苔の真假は有根無根の判断となる。

舌苔がしっかり堅く締まって、舌面に緊密に貼り付き、拭い去ることができないものを有根苔(ゆうこんたい)といい、真苔(しんたい)に属する。
病の初期や中期において、有根の方が無根より病が深くて重いが、後期では有根の方が無根に比べ、胃気が尚存在していることを示し、予後が良好といえる。舌面に一層の厚苔が浮かび、無根のように見えても、その下に新しい苔が出来ていれば、病は快方に向かっているといえる。

舌苔が定着せず浮遊しているような状態で、簡単に拭い去れるものを無根苔(むこんたい)といい、假苔(かたい)に属する。

朝舌一面に舌苔があっても、食後無くなるのは、假苔に属するが無根ではなく、病という訳ではない。舌苔が消失した後、少苔か無苔であれば、が虚しているといえる。舌苔が有色で拭い去れるものは、病が軽くて浅い。一部が厚苔で無根で、その下に新しい苔ができてないものは、もともと胃気があったが、その後消耗したと考えられ、多くは凉性の薬を過度に用いたため陽気を消耗したか、温性の薬を過度に用いて陰を消耗したためといえる。

疾病は複雑な発展過程を示し、人体の病理もまた複雑に変化します。そこで重要になるのが、疾病における舌質舌苔の基本的な変化と、舌質と舌苔の相互関係です。普通、舌質を見ることで正気の虚実と邪気の性質が、舌苔を見ることで邪気の深浅と性質、胃気の存亡が判断できます。従って、舌質と舌苔では判断できることが異なるため、それらを分けて観察する必要がありますが、疾病の分析には両方を総合して判断する必要があります。また一般的な状況下では、病理変化において舌質と舌苔び変化は一致します。例えば、実熱証であれば、舌質紅で舌苔黄干といった具合です。しかし、実際には病理変化と舌質や舌苔が矛盾する状況もあります。そこで四診合参が必要となる訳です。

舌質ごとの舌苔の変化を以下にまとめます。

●淡白舌と舌苔の関係

淡白舌
透明苔

舌色浅淡で、苔が薄白で透明で湿って明るいのは、苔のようであるが苔ではない。
中焦の陽気が運化できず、水湿の気が上部に現れたもの。
脾胃虚寒

淡白舌
白干苔
舌淡白で、苔は乾燥して板のように硬い。
邪熱が中焦に滞ったための陽虚津虧。
脾胃熱滞。

舌淡白で、砂のようにザラザラする。
邪熱内結による津液涸渇。
熱結津傷。

淡白舌
黄裂苔
舌淡で、浅黄苔が一面にある。苔の厚みは厚い場合も薄い場合もある。

更に裂紋があって津液がやや乾燥している場合、もともと衰弱していて気血双虧で熱が浮いている。
気虚津少。

逆に潤滑な場合、気虚夾湿で湿濁が上部に溢れている。
気虚津少夾湿。

淡白舌
黒燥苔
舌淡で、苔は灰黒で棘のように乾燥し、削り取るときれいになる。
陽虚で津液を輸布できない。
陽虚寒甚。

●淡紅舌と舌苔の関係

淡紅舌
光ほう苔

舌淡紅で嫩、光ほう無苔、湿り気は丁度良い。
胃の気陰不足。
胃腎陰虚または気血両虚で常見。

淡紅舌
偏白滑苔
舌質淡紅、左側に一条の白滑苔があってその他は無苔。
肝胆湿熱化燥傷陰。
主病邪入半表半裏、肝胆に病があって湿濁化燥傷陰、陰虚で胃停宿垢など。
淡紅紅点舌
白膩干苔
舌淡紅で尖辺に紅点があり、白膩苔で乾燥している。
熱蘊営血で風寒外束または熱盛傷津で脾胃湿滞。
淡紅舌
根白尖黄苔
舌淡紅で、一面に薄白苔があって尖部のみ淡黄色。
熱が上焦にある場合、外感風熱が表にあるか風寒化熱で、正に裏に移行しようとしている場合。
淡紅舌
黄黒苔
舌質淡紅で、外周が黄ぞう苔で中心が厚膩な黒褐苔。
痰湿鬱熱で化燥傷陰または脾胃湿熱蘊結。

●青紫舌と舌苔の関係

紫舌
白膩苔

舌紫で白厚膩苔。
飲酒または外感表邪が裏に入ったことにより紫になる。
飲酒による湿熱内蘊の場合、厚膩苔になる。

青紫舌
黄滑苔
舌色が青みがかった紫で、黄厚苔で潤滑。
寒滞血おで青紫色になる。
飲食内停または熱獿未清で黄苔で潤滑になる。
淡紫舌
灰苔
舌淡紫で苔灰や、辺尖淡紫で中央に灰苔が広がるか、中心が淡紫で周囲に灰苔がある。
淡紫舌は淡白舌から変化したもので、もともと虚弱か、あるいは疫熱病で湿中生熱で熱傷血分による。
虚弱病体または熱入血分で見られる。
青舌
黄苔
青みがかった淡白舌で淡黄苔が一面にある。
夏期に暑邪を受け、生冷過食し、中寒吐瀉の場合か、または陰盛で熱が上部に浮いている真寒假熱
黄苔は熱によるものではなく、寒湿蘊積で血分に入ったため。
寒湿内盛。
葡萄疫舌 舌質が青い一塊、紫の一塊、苔が黄色い一塊、黒い一塊となって、舌の上に盛り上がり、盛り上がった部分には水が溜まって、まるで葡萄のように見えるか、青色または紫になる。
口内の他の部分にも出現し、のどの痛みや唇の腫れ、口内の汚れや口臭を伴う。
熱毒遏伏で、穢濁鬱結して上部を薫蒸するために起こる。
瘟疫病。葡萄瘟疫という。
 

 

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