聞診
聞診とは、音と臭気を包括的に観察することで、ここでいう音とは、病人の声、言語、呼吸、咳、嘔吐、しゃっくり、げっぷ、ため息、くしゃみ、胃腸の音など、体が発するいろいろな音を、臭気とは、病人の体臭、分泌物や排泄物のにおいなど、体内から生じるにおいを指します。

古い文献にも見られるように、聞診は早くから診断において大きな役割をなし、臓腑の生理や病理変化を知るための重要な判断材料となっています。

 

音を聞く

体が発する音は、肺、のど、咽頭蓋、舌、歯、唇、鼻などの器官が協調的に活動し、共同して作用した結果現れます。は発声の動力源であり、一身之気を主り、気を動かして声を出します。のどは発声の器官で、声は必ずのどから発せられます。この他の器官も体から発生するいろいろな音を調節しています。

音の異常変化は主に肺と関係がありますが、納気を主るや、経絡を通してその他の臓腑が肺や腎に影響を及ぼしていることもあります。つまり、音を聞くことで、音と関連のある臓腑の病変だけでなく、音の変化となる根拠を探ることができ、更に体内の各臓腑の変化を診ることもできるのです。一般に、急性疾患や軽病では音にはさほど変化がなく、慢性疾患や重病で変化が現れます。

 

正常な発声

健常人の場合、個人差はあるものの、発声は自然で、リズムや強弱が自由であることは共通した特徴といえますが、性別、年齢、体質の違いにより、健常人であっても皆同じという訳ではありません。男性の多くはハスキーで低く、女性の多くは澄んで高く、子供はきゃんきゃんして鋭角的で脆く、老人は濁って低く小さいのが特徴です。

発声と情志の変化も関係があります。声を例にとってみましょう。うれしい時には声は喜びに満ちて四方に響きますが、怒った時には憤りが現れ、急く感じになります。悲しい時には悲惨な感じで断続的になり、楽しい時には伸びやかでゆったりとします。尊敬する相手と話す時には誠実で厳粛な感じになり、愛する人と話す時には温かくて柔和な感じになります。このように、一時の感情が、声に感動や変化を与えることがありますが、これば正常範囲の変化で疾病とは何ら関係がありません。

 

声を聞く

五行では五音、五声は以下のように対応し、正常な状態では、人の情志変化を反映します。しかし、病理状態においては、五臓の病変を反映し、往々にして五音の異常表現や音調変化などが現れ、臓腑の病変を探る根拠となります。

五行
五音
五声
五臓

声がかすれたり、全く声が出せなくなる場合、急性のものは実証で、多くは外感風寒または風熱あるいは寒熱両方の邪がを襲ったか、痰濁壅滞により、肺気不宣、清粛失職になったためと考えられ、金実不鳴といわれます。慢性のものの多くは虚証に属し、精気内傷、肺腎陰虚、虚火灼金が常に見られ、津枯肺損のため声が出しづらく、金破不鳴といわれます。喚き散らすとのどを傷つけ、声が出なくなることがあるが、これは気陰耗消によるものです。妊娠中に声が出なくなるのは、胎児が妨げとなって精気が上部を養えないためです。

病人であるものの、声が高くよく響き、力があって途切れず、後半になるほど声が大きくなり、体ががっちりしてが充実している場合、多くは実証熱証に属します。風寒湿などの邪を受けた場合は、鼻が詰まって鼻声になります。声が低く弱々しく、途切れ途切れになり、徐々に声が小さくなり、虚弱でびくびくしているような場合、多くは虚証寒証に属します。

睡眠中の鼾の多くは気道の詰まりによるもので、全てが疾病に関連しているとはいえません。昏睡状態で目覚めるtこがなく、鼾が止まらず、夜尿をまき散らす場合、多くは中風がに入った危険な状態です。

呻吟して止まない場合、身体に苦痛や脹りがある時によく見られます。眉間に皺を寄せて呻吟するのは、重度の頭痛に、呻吟さえできないのは、足腰の痛みがある場合に、胸や腹に手を当てて呻吟するのは、胸部や腹部の痛みがある場合に、頬に手を当てて呻吟するのは歯痛の場合によく見られます。普段は密やかにしかしゃべらないのに、急に驚いたように叫ぶのは、関節の疾病か、あるいは病が骨にまで達していると考えられます。声が暗く悲しく透き通った感じがするのは心隔間病といえます。尖った声で短時間驚いたように叫び、恐ろしい形相になる場合、多くは驚風証で、恐怖による小児の夜泣きや、心脾経に熱がある場合、脾寒腹痛でも見られます。

 

言語を聞く
言葉少なく沈黙するのは虚証寒証に多く見られ、イライラして口数が多いのは実証熱証によく見られます。言葉が微弱で遅くて低く、しゃべりたいのにしゃべれないのは、中気大虚証といえます。言葉に詰まるのは、風痰蒙蔽清竅または風痰阻絡です。言葉が錯乱するのは、神明が乱れているか心病であり、虚実どちらにも見られます。

譫語(せんご)とはうわごとをいうことで、神識不清であり、言葉の順序がバラバラで、声高で力があります。多くは熱擾心神の実証といえ、温病の邪が心包に侵入したか、陽明腑実証、血熱、お血、便秘、痰凝などが原因と考えられます。鄭声(ていせい)神識不清であり、低く弱い声で断続的に同じことを繰り返すものです。心気大傷による精神錯乱の虚証に属します。休むことなく辻褄の合わない独り言をぶつぶついい、人目があるというのを止めるのを独語(どくご)言語が錯乱しているものの、自分でおかしなことをいっているという自覚のあるものを錯語(さくご)といい、どちらも心気不足のためが養えない虚証に属します。

 

呼吸を聞く

病人の呼吸が正常であれば、気質的な問題はあっても機能的には問題はありません。しかし、呼吸に異常があれば、気質的にも機能的にも問題があるといえます。外邪があって、呼吸が粗くて早い場合、熱証実証に属します。内傷正気不足で、呼吸が弱くて遅い場合、虚証寒証に属します。一般的に、呼吸が粗いのは実証、呼吸が弱いのは虚証に属しますが、慢性疾患でが今にも絶えそうな場合は、呼吸が粗くて断続的で仮実証といえます。温熱病、熱在心包などで、息が弱く朦朧としている場合、仮虚証といえます。呼吸が弱く困難で、息切れがして息が続かないのは、元気大傷し、陰陽離決した危険な証といえます。

臨床的には、他に、喘、哮、上気、少気、短気などがあります。

喘証と哮証は常に同時に発現するため、往々にして哮喘(こうぜん)と呼ばれます。哮と喘は、呼吸困難でのどに水のような音がするものを哮、呼吸困難で息が続かないものを喘と区別します。

喘証(ぜんしょう)とは、呼吸困難で、差し迫った息切れの状態があるものを指します。ひどい場合、口を大きく開けて肩で息をし、小鼻がひくひくして、平らに横たわることができません。喘証にも虚実があります。実証の場合、体格ががっちりとしていて、実脈で有力、発作は慌ただしく、顎を出して目を見開き、粗い呼吸で、声高に息を吐き、吐き出した方が楽になります。多くは、肺有実熱か痰飲内停に属します。虚証の場合、体形も虚弱な感じで、脉は虚無力、びくついたり、怯えやすいのが特徴で、発作は緩やかであるものの、息切れして息が続かず、動くと悪化し、深呼吸すると落ち着きます。これは、肺腎虚損による気失摂納によります。

哮証(こうしょう)とは、呼吸が速くなるのは喘証と似ていますが、声高で断続的、のどで痰の音がし、発症したり、止まったりして治りにくいのが特徴です。多くは、内有痰飲、あるいは外寒束于肌表によって引動伏飲したことが原因です。他に、外邪が表散できずに肺経に束したり、寒湿のある所に長く住んでいたり、酸味・鹹味・生冷過食があったりしても発症します。

上気(じょうき)とは、肺気が宣散できずにのどに上逆し、気道が塞がり、呼吸困難になるものを指します。咳が出て上逆し、痰を吐き、起座呼吸するようば場合は痰飲内停胸膈、のどがすっきりしない場合は、陰虚火旺による火逆上気、浮腫を伴う上気の多くは、外寒束于皮毛により廃棄壅塞し、津液が輸布できないためと考えられます。

短気(たんき)とは、呼吸が速くて短く、呼吸数が多いものの、息が続かない状態をいいます。喘証のように肩で息をしますが、のどで痰の音はしません。短気には実証虚証があります。短気があって、のどが渇き、四肢の関節痛、脉沈であれば、停胸中で実証、また傷寒病で心腹が固く張って短気の場合は、裏証で実証です。体が虚して気短の場合、肺気不足による虚証、腹部が張っているものの軟らかくて短気の場合は、裏証で虚証に属します。

少気(しょうき)あるいは気微(きび)とは、呼吸が微弱で、短く小さく、びくびく恐れるような状態を指します。短気と異なり連続せず、一般的に身体状態には変化もありません。これはいろいろなものの不足が原因で起こる虚弱体質に見られます。

 

咳嗽を聞く
咳嗽はの疾患に多く見られますが、その他の臓腑とも密接な関連があります。咳嗽の音や併発する症状は、疾病の寒熱虚実を鑑別するのに役立ちます。

詰まったような咳の多くは寒湿に属します。咳が濁って重く、白くて薄い痰があり、鼻づまりがあるようなら、多くは外感風寒です。低い咳で、痰が多くて吐き出しやすいものは、寒咳、湿咳、痰飲に見られます。

はっきりして歯切れがよい咳の多くは燥熱に属します。空咳で痰がないか、あるいは少量の粘液のような痰が出る場合、燥咳または火熱咳嗽といえます。

籠もったような咳で、痰が黄色く粘って出しにくく、のどが乾燥して痛み、鼻から熱気が出るような場合、肺熱に属します。咳が籠もったようになる場合、多くは肺気不宣が原因です。

しばらく咳き込みが続く場合、多くは風に属します。発作的に咳き込んで止まらず、ひどいと吐き気がしたり、吐血しすることもあり、百日咳とも呼ばれます。小児では、肺実に属するものが常見されますが、多くは風邪と伏痰が搏結し、鬱して化熱したものが、気道に阻遏したために起こります。犬が吠えるような咳は、多くは肺腎陰虚による火毒攻喉によります。

力無く、低く、小さな咳で、泡沫状の痰を出し、息切れの見られる場合は肺虚に属します。夜間に悪化する場合は腎水虧、日中に悪化する場合は脾虚または寒湿在大腸といえます。

嘔吐を聞く
嘔吐には、有嘔、乾嘔、吐の三種類があります。有嘔(ゆうおう)とは吐くときに音が出て吐物があるもの、乾嘔(かんおう)とは音は出るものの吐物がないもの、吐(と)とは吐物はあるものの音が出ないものをいいます。どれも胃気上逆によるものですが、吐く時の音のあるなしは寒熱虚実を鑑別する根拠になります。

虚寒証の嘔吐は、吐く勢いは緩やかで音も弱く、吐物は涎のように透明で稀薄です。実熱証では、吐く勢いが激しくて音も大きく、吐物は黄色く粘った痰のようで、酸味または苦味があります。症状が重い場合は熱擾神明して、噴射するように嘔吐します。

いくつかの嘔吐は、望診、問診、切診も併せて行い、原因を探る必要があります。食中毒による嘔吐の場合、例えば嘔吐と下痢が同時に見られる霍乱は飲食について尋ねなければなりません。えづいて朝食べたものを夜吐く場合は、胃陽虚か脾腎両虚で消化できてないことを示します。口が乾いて水分を欲しがるものの、水分摂取後に吐くのは水逆証で、太陽蓄水証または痰飲のある場合に見られます。胸悶、腹満、便秘があって吐くのは、腸に燥屎が滞り、濁気が上犯しているためです。気鬱で吐き、胸悶や脇痛があるのは、肝気犯胃の症状です。胃癰の場合は、膿汁を吐きます。

しゃっくりを聞く
あく逆(あくぎゃく)とはしゃっくりのことで、ひくひくと音が連続するものをいいます。胃気上逆に属し、のどから突き上げて出る、自分ではコントロールできない一種の衝撃音を発します。しゃっくりの音の長さ、高低、途切れる間隔などは疾病により異なるので、寒熱虚実を鑑別する根拠になります。

急性のしゃっくりの場合、音に力があり、多く寒邪または熱邪が胃に滞ったものと考えられます。慢性のしゃっくりでは、音は低く、怯えたような感じになりますが、これは胃気が絶えようとする前兆です。

力強く高音で、短いしゃっくりが頻繁に出る場合、多くは実熱証に属します。力ない弱々しい音で、低くて長いしゃっくりが間を空けて出る場合、多くは虚寒証に属します。しゃっくりが出る時、音が低く怯えたようでのどまで到達しないか鄭声が見られるのは、脾胃気衰により虚気上逆したもので、虚寒証に属します。しゃっくりの音が高くも低くもなく、発症時間も短時間で、気分もすっきりし、特に併発する症状もない場合は、急いで食事を摂ったことや感受風寒のため、一時的に気逆を起こしたもので、自然に治ります。

げっぷを聞く
あい気(あいき)とはげっぷのことで、胃からが上部に向かい、のどから声とともに出るものをいい、胃気上逆の一種です。飲食後に出るげっぷは病気ではありませんが、もし酸味や腐臭を伴い、胸部や胃が脹るようなら、消化不良による気滞といえます。げっぷが頻繁で、音が高らかではっきりしており、げっぷとおならが出るとお腹がすっきりするのは、肝気犯胃によるもので、精神状態によりげっぷが増減するのが特徴です。

げっぷの音が低く、特に味やにおいもなく、食事がおいしくないのは、脾胃虚弱によるもので、慢性疾患の患者や老人によく見られます。寒気が胃に滞って胃気上逆し、げっぷになることもあります。発汗、嘔吐、下痢の後の胃気不和では、げっぷが出にくくて不快です。

ため息を聞く
太息(たいき)とはため息のことで、情志の病によるものです。精神が抑鬱された時に、胸悶がして不快なため、はーっと長く或いはふっと短く発するもので、発した後は不快感が軽減します。多くは、精神が不安定だったり、思うようにならなかったりして、気分が鬱いだ時に出ますが、これは肝気鬱結によるものです。

 

くしゃみを聞く
噴嚔(ふんしゅん)とはくしゃみのことで、肺気が鼻に突き上げて出るもので、外寒風寒によく見られる症状です。外邪に鬱してなかなか治らないのが、急にくしゃみが出始めるのは、病が快方に向かう兆しです。

腸鳴を聞く
腸鳴(ちょうめい)とはお腹が鳴ることで、音の出る場所や音自体で、病位や病性を知ることができます。胃の辺りで袋に液体を入れたように音が振動し、立ったり、動いたり、手でさすったりすると、ギュルギュルという音が下行するのは、胃に痰飲が停留しているのが原因です。腸が飢えているかのようにグルグルと音がして、温めたり、食べたりすると軽減し、冷えたり、空腹になったりすると悪化するのは、中虚胃腸不実です。もしお腹が雷のようにゴロゴロいうのは、風、寒、湿などによるもので、脘腹痞満や水っぽい下痢が見られます。寒が甚だしい場合は、脘腹疼痛や手足の冷え、嘔吐などが見られます。

臭気を聞く
ここでいう臭気とは、病人の発する臭気病室内の臭気の両方を指します。どちらの臭気も、疾病と関係があります。病人の発する臭気には、口臭、汗のにおい、鼻のにおい、体臭などがあります。病室のに臭気は、病人自身の体や排泄物から発せられるものが室内に充満したものです。これらは、病気の重さや状況を表す根拠になります。

体から発する臭いに異常のある場合は、病人自身も自覚していることが多いのですが、痰や涎、大小便、おりものなどの排泄物は、病人やその家族が問診中に理解する場合が多く、問診が重要といえます。例えば、大便がの臭いがきつい場合は、生臭い場合は、小便の色が濃く、濁って臭い場合、多くは湿熱、おならが酸臭のある場合、多くは宿食停滞、またおりものが臭う場合は、生臭い場合はなど、問診時に情報を得、病人や家族に説明することが大切です。

口臭を聞く
健常人が会話する時、口臭は感じられないのが普通です。しかし、消化不良や虫歯がある、口内が不潔であれば口臭を感じます。酸臭の場合は宿食、臭いがきつい場合は胃熱、腐ったような臭いの場合は多くは潰瘍やできものなどの存在が考えられます。

汗のにおいを聞く
病人の汗はにおいが残るため、汗が出ていたことが判ります。

鼻のにおいを聞く
鼻のにおいは、汚い鼻水が止まることなく出ているためで、鼻淵証といえます。

体臭を聞く
体臭がある場合、潰瘍やできものが考えられ、精密検査をする必要がありあす。

病室内の臭気を聞く
瘟疫病に罹るとすぐ臭気が感じられるようになり、軽症では病人の寝ているベッド周辺に膜を張ったように漂い、重症では病室全体に充満します。病室に腐臭や死臭がある場合は、臓腑を損なっていて、危険な状態に属します。病室が血生臭い場合は、多くは失血証といえます。また病室に特殊なにおいがある場合もあります。ムッとする尿のにおい、すなわちアンモニア臭があれば、多くは水腫末期、熟し過ぎたりんごのようなにおい、すなわちケトン臭があれば、多くは消渇病の重篤な状態といえます。

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